これは朗報に違いないのですが、一方では、治療によってどんな効果があるか、何が起こるかをよく考えずに延命治療を行う医師によって、余計な苦痛に悩む患者がいます。医師は患者の命を救うのが第一の目的であり、患者を生かすための訓練は受けていても、より良い死を迎えさせるための訓練を受けているわけではないため、まだ試していない治療法があれば、どうしてもそれを実施する方に傾いてしまうのです。

 制度的にも、緩和ケア病棟では入院期間が「30日以内」「30~60日」「60日超」と延びるにしたがって診療報酬が下がるようになっています。そのため30日を超えると退院を促されたり、最初から入院期間は30日までと決められたりする場合があるようです。つまり余命が1カ月以上という場合は、そもそも緩和ケアの対象ではなく、まだ治療の対象だということなのです。

 また、コロナ禍によって緩和ケア病棟が閉鎖され、在宅で緩和ケアを受けるケース(在宅ホスピス)が増えましたが、そのせいでスピリチュアルケアがなされなくなったり、ひっぱり症候群が増えたりした面もあるようです。

 なぜかというと、在宅ホスピスの場合、患者宅を訪問するのは基本的に医師と看護師であり、そのほかの人たちも交えたチームケアができにくいことや、緩和ケア医には、元はがん専門の外科医や内科医であった人が多いため、「少しでも長く生かしたい」という医師本来の思いが前面に出がちであることなどが関係しているのかもしれません。

家族が望む点滴が
苦痛を増やすことがある

 あなたの親や配偶者が、死に瀕して、食べ物も飲み物も摂らなくなったら、あなたはどうしますか?医師に頼んで点滴を打ってもらうでしょうか。それとも、そのまま見守りますか?

 死の間際になると、私たちの身体にはさまざまな変化が起こります。食物や水分を摂らなくなる。意識レベルが低下する。四肢が冷たくなる。唇や鼻が青白くなる。さらに、呼吸が徐々に浅くなって無呼吸になり、しばらくして再開する「チェーン・ストークス呼吸」や、下顎を上下に動かして口をパクパクさせる「下顎呼吸」なども起こります。