いくら勧めても食物や水分を摂らなくなると、「このままでは死んでしまう」と慌てて、家族が医師に頼んで点滴を打ってもらうことがあります。医師も無下には断れず、点滴を打つこともあります。

 しかしそれは逆効果で、点滴を打つと肺に水が入ることがあり、溺れたのと同じ状態になってしまって苦しいのです。食べたり飲んだりしなくなるのは死の準備の一つであり、何も口にしなくても飢餓感はないため、水を含ませた脱脂綿で唇を拭う程度でいいといわれています。

 下顎呼吸も、とても苦しそうに見えるため、これが起こると家族が動揺します。しかし実は、ランナーズハイと呼ばれる状態などで出る、βエンドルフィンという脳内麻薬が出て、多幸感を覚えているため安らかな状態だそうです。

 傍目には苦しそうでも、実は苦しくないわけで、それを知らずに酸素吸入をすると、βエンドルフィンが減って多幸感が薄れてしまいます。さらに血中酸素濃度が上がって、二酸化炭素濃度が下がります。すると、二酸化炭素の働きで麻酔をしたような状態になり、痛みを感じにくくなっていたのが、痛みを感じやすくなってしまうのです。

 このように、終末期に濃厚な医療を行うとかえって苦しむことは、医療者の間では共有されつつありますが、一般にはあまり知られていないようです。医師がきちんと説明しなければならないのはもちろんですが、私たちも科学的根拠に基づいた終末期の対処法を、知っておく方がいいでしょう。

 そうしないと、「安らかに逝ってほしい」と願っているのに、かえって苦しませてしまうことにならないとも限りません。