指を差して主張するビジネスマン写真はイメージです Photo:PIXTA

精緻なデータをそろえ、筋の通った主張をして説得する。しかし、肝心の相手に響かない……。誰かの心を動かすには、正しいことを伝えるだけでは不十分。正論を盾に「論破」をしようとする人が陥りやすい落とし穴とは。※本稿は、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一『語りの牙 論理と感情をつなぎ、確実に刺す全技術』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

人は変わることを嫌う生き物……
その前提を覆す方法はあるのか?

「人は、変わることを嫌う生き物だ」

 私は、コミュニケーションの前提として、常にそう考えています。

 どんなに素晴らしい正論を説いても、どんなに便利な道具を渡しても、人は現状を維持しようとする生き物です。

 だからこそ、ちょっとやそっとの言葉で人が動かないのは、ある意味で「当たり前」のことなのです。

 しかし、一方で私はこうも信じています。

「人は、本気になれば変われる」

 言葉の力によって生き様が変わり、昨日までとは違う自分として歩み始める瞬間を、私は何度も目撃してきました。

 人は変わらない。けれど、変わる力も持っている。だからこそ、私は「全力」で伝えることを決して諦めません。相手が変わる可能性が1%でもあるのなら、その1%をこじ開けるために、持てるすべてのエネルギーを言葉に注ぎ込む。

 本稿で紹介する「牙」とは、相手を論破するための武器ではありません。

 相手の心の扉をノックし、その人生に変化を促すための、伝え手としての「本気の情熱」の別名なのです。