化学サバイバル!#27

繊維を祖業とするメーカーの医薬事業で明暗が分かれている。帝人は稼ぎ頭であった痛風薬として知られる「フェブリク」など多くの製品を手放す方向にかじを切るほか、医薬事業が赤字に陥っている東レも今後3年で医薬事業の戦略を根本的に見直す方針を打ち出した。対照的に医薬事業が絶好調なのが旭化成だ。医薬事業を含む「ヘルスケア」セグメントの営業利益は2026年3月期で835億円。全社の約3分の1を稼ぎ出す。特集『化学サバイバル!』の本稿では、帝人と東レという名門2社の医薬事業の行方や、旭化成が2社との明暗を分けた理由を明らかにしていく。(医薬経済ONLINE 吉水 暁)

帝人のフェブリク失速、ネシーナ減損
帝人が医薬品事業を絞り込む理由

 製薬業界には「兼業メーカー」「兼業製薬企業」という言葉がある。医薬以外を本業とする企業が本体もしくは子会社で医薬事業を手掛けている場合を指し、住友ファーマや旭化成セラピューティクスなどが該当する。子会社に帝人ファーマを擁する帝人、本体で事業化している東レもそうだ。自社が持つ技術や事業基盤が使えるとにらみ、収益多角化の一環として参入してきた化学、繊維、食品の各社に多い。

 かつてはフェブリクのように一世を風靡する製品を生み出していた兼業メーカーだが、モダリティ(治療手段)が化学合成をベースとした低分子医薬品からバイオ医薬品へとかわるなど複雑化したり、新薬を生み出すことが難しくなってきたりしたことを背景に研究開発費が巨額化する中、それが重しになり、思うような成果を出せていないケースが増えている。このため、三菱ケミカルグループが完全子会社だった田辺三菱製薬を米投資ファンドに売却するなど、グループでの位置付けを再検討する流れにある。医薬事業の見直しを進める帝人や東レの動きもこの延長線上にあるとみる向きが多い。

 まず帝人の現状を眺めてみよう。完全子会社である帝人ファーマで行っている医薬事業は、帝人の「ヘルスケア」部門に含まれる。同セグメントは主に医薬事業と在宅医療事業で構成し、現在、育成中の再生医療関連事業、あるいは上場子会社であるジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)の業績は入らない。

 2026年3月期決算の業績を見ると、ヘルスケア部門の売上収益は1386億円(前期比16億円増)、事業利益は134億円(同77億円増)と増収増益を果たしている。しかし、その要因は閉塞性睡眠時無呼吸症候群という疾患に対する在宅医療機器「CPAP」のレンタル台数の伸長や、他社にライセンスアウトした医薬品の対価収入の増加などが貢献した結果。医薬事業単独で業績は開示していないが、主力として期待してきた糖尿病薬が売れずに数量が減少していることや、薬価切り下げが直撃していることを踏まえると、調子が良くない様子が垣間見える。

 ヘルスケア全体では一見、好調なようだが、これは炭素繊維などで構成する「マテリアル」で事業利益が1億円など帝人の他の部門が振るわず、相対的に良いこともある。実際、27年3月期のヘルスケア&ライフソリューションズ部門(26年度から「ヘルスケア」部門を改称)の見通しは売上収益が1100億円、事業利益が100億円と落ち込む予想となっている。帝人の医薬事業が不振に陥ったのは、柱となる新薬が見当たらないことに他ならない。自社で生み出したフェブリクが大型化し、一時は医薬事業の屋台骨を支えていたが、特許切れに伴い、安価な後発品が市場になだれ込み、売り上げを落としている。

 そこで穴埋め役として期待を寄せたのが「ネシーナ」など糖尿病薬4製品だ。21年に1330億円で武田薬品工業から買ってきた製品群だが、新しいタイプの糖尿病薬が続々と出てきたこともあり、「思ったよりも売れなかった」(帝人ファーマ幹部)。直近2期連続で減損損失を計上するという体たらくだ。事実、4製品の合計売上高は25年3月期で200億円だったのに対し、26年3月期は178億円と1割以上、落としている。27年3月期に関しては、帝人ファーマで最も売り上げているネシーナの薬価が4割近く引き下げられることもあり、さらに落ち込むのは確定的。

 本体からてこ入れしようとしても極めて難しい。なぜなら糖尿病薬4製品や耐熱・高強度素材「アラミド繊維」などでの減損損失が重なり、26年3月期で最終損失880億円と過去最大の赤字に沈み、余裕がないからだ。あちこちで火の手が上がる中では、医薬事業再建に向けて他社から大型製品を買ってきたり、さらに研究開発費を投じたりするのは「ない袖は振れない」(帝人OB)ということなのだ。

 こうした状況を踏まえ、内川哲茂社長らが決断したのが「希少疾患・難病領域への絞り込み」という医薬事業の大幅な見直しだ。希少疾患や難病の場合、患者が自宅で過ごす際にもきめ細かいサポートが欠かせない。そのため、CPAPや酸素ボンベなど在宅医療で培ってきた事業基盤やネットワークが利活用できる同領域に軸足を置くことにした。

 結果、残るのは上下肢痙縮治療薬「ゼオマイン」、先端巨大症などへの治療薬「ソマチュリン」、デンマークの製薬企業アセンディス・ファーマから導入した希少内分泌疾患薬など開発中も含めて10製品に満たない。フェブリクやネシーナなどそれ以外の製品は「再構築」として売却などの可能性を探ることになる。同時に実施予定の「ネクストキャリア支援制度」(早期退職優遇制度)で募る300人のうち、150人は帝人ファーマからを見込み、大幅な人員削減にも踏み込む。

 もっともこれで医薬事業の先行きが安泰かというとそうは問屋が卸さない。まずゼオマインなど手元に残す製品群の売り上げ規模が小さいことがある。足元で販売中なのはゼオマインとソマチュリンの2製品だが、26年3月期の売上高はそれぞれ26億円、66億円。主要医薬品の国内売上高実績に占める割合は2割弱にしかならない。今後、アセンディスからの導入品も加わってくるとみられるが、それはまだ先。仮に加わったとしても希少疾患という名の通り、患者数が限られていることからすると急に売り上げが増えるとは考えにくい。要はその程度の売り上げで医薬事業が成り立つのかという問題にぶち当たる。

 もう一つがフェブリクやネシーナなどに買い手がつくかということだ。いずれも“枯れた”製品である上に薬価も引き下げられたり、後発品に侵食されたりしている。新薬の研究開発に経営資源を集中する通常の製薬会社だったら、まず手を挙げる姿は想像しにくい。

 ただ、大方の業界関係者の予想とは裏腹に、フェブリクについては早くも決着した。帝人は6月17日、フェブリクなど7製品をLTLファーマへ譲渡すると発表した。対象製品の26年3月期売上高は国内が86億円、海外が38億円。内川社長は掲げる「ベストオーナー(最適な担い手)探索」を有言実行した。

 とはいえ、ネシーナなど切り出す対象としては8製品がいまだ手元に残ったまま。「だらだらと3年後にやることではない」(内川社長)とするが、競争力の衰えた製品が目立つだけに道のりが依然、険しいことに変わりはない。

 帝人が医薬事業の縮小に動く一方、東レは売却ではなく黒字化を優先する。なぜ同じ繊維メーカーで判断が分かれたのか。そして、なぜ旭化成だけが医薬事業を 「第3の柱」 に育てることができたのか。その差を生んだ経営判断を次ページで探っていく。