直美は当時の暮らしのなかで無理なく続けられる方法を考える。
まず、濡れ手ぬぐいを部屋にかけておくことで、部屋の湿度を保つ。子どもの足の汚れは、上がり框に雑巾を置き、50回とんとんできるか競争しよう、と楽しく足を拭くことを教える。
頑張ってもうまくいかないとき、できないことに苛立つのではなく、できる範囲でベストを尽くす。とても前向きで合理的な考え方だ。
感情をアップダウンさせることなく、次の手を考える直美は、ずいぶんと成長したと思う。

マッチが心に火をつける
直美が事務所でしのぶと話しているところに小川吾郎(甲斐翔真)がやって来た。
「すみません。約束の日ではありませんが」
なんだ、なんだ、なにか思いが募って、矢も盾もたまらず来てしまったという感じ?
『風、薫る』の男性陣はみんなそう。待ち伏せたり押しかけたり。ただ、この時代、スマホがないので、事前に連絡などはできないので、会いにくるしかないのだろう。『源氏物語』の時代、男性がせっせと通ってきたような名残がまだ残っていたのかも(あくまで想像です)。
しのぶが気を利かせて出ていく。今日のしのぶはいちいち、気が利いていた。
やって来た小川は、部屋に置かれたマッチ箱に目をやり、唐突に言い出す。
「自分、マッチが好きなんです」
そして、その理由を述べる。
「子どもの頃、初めて家でマッチを使ったとき、簡単に火がついて魔法かと思うて」
マッチと母親とのなつかしい思い出を九州弁で語る。
「いまでも好いとうと、マッチ」
「好いとうと」は朝ドラ『カーネーション』(11年度後期)の周防さん(綾野剛)の告白を思い出す。方言萌え。
「小川さんは好きなもの見つけるのが上手ですね」と直美が言うと、「はい、好きです」「直美さんのことが好きです」と畳み掛けてくる。
「結婚してください。仕事に打ち込む直美さんも団子を食べてる直美さんも好きです」
これ、横沢(井上祐貴)と同じ。相手のいいところを並べている。ただ、横沢よりもボキャブラリーが少ないし、好きなところも仕事と食べることの2つしかない! でも小川のシンプルさがよく出ていて好感はもてる。
これまでも小川はじわじわ(ぐいぐい?)と直美への好意を示し、結婚も匂わせていたが、直美は「え?」と戸惑う。その後の彼女の反応は例によって描かれない。この回の最後にお預けになっている。
ここは間をスキップしよう。
直美はプロポーズを「すみません」と断っていた。でも、後ろ髪を引かれているようで……。
直美の心の変化は、マッチによって表現される。昔、マッチ工場で働いていたとき、ろくな思い出がないため、マッチを見るのも嫌だったはずが、マッチを見て思わず顔がほころんでしまうようになった。
「マッチは火がつく魔法だ」と言った小川を思い出すのだ。マッチがいやな思い出から微笑ましい思い出に変わった。火がつく魔法で直美の心に火がついたという、じつに端的な暗喩(メタファー)。
火は『風、薫る』では重要なモチーフだ。
養成所編のとき、ランプの火屋(ランプシェード)磨きをしているシーンが何回かあった。ナイチンゲールが「ランプの貴婦人」と呼ばれていたのもあって、ランプの灯りが看護婦の慈愛の象徴のようでもあったのだ。マッチの灯りもまた、人の心にあたたかい火を灯す。







