写真 加藤昌人 |
自分の頭のてっぺんにできた池に身を投げるという落語の演目「頭山」の実在論的オチが、子どもの頃から心に引っかかっていた。子ども向けのファンシーな作品を作り続けるなかで、自分自身を見つめ直す決定的な作品が欲しいと、迷わず頭山を選んだ。6年を費やし、「自分のために作った」。世界が絶賛した。
一つの時代にしか生きられない商業的「アニメ」とは隔絶した作品世界は、普遍的な芸術性を見せつけている。そこには大いなる自由がある。時空間を飛び越え、主体と客体はコロコロと逆転し、メタモルフォーゼ(変態)が散乱している。言葉には決してできない、感覚のなかの出来事が再現されているのだ。
わずか5分、10分のショートフィルムでも、何千枚ものコマを繰り返し描き、連続させることで動きを作るが、観る者はむしろ、コマとコマのあいだの余白に、想像力を掻き立てているのだ。
その哲学的思考は、エストニアのプリートパルンやロシアのユーリ・ノルシュテインの技巧と風刺的な作風に大きく影響を受け、醸成された。「自分と世界との関係性を確認する、表現とはそういうもの」。「カフカ 田舎医者」では、抗いようのない現実に絶望を抱えながら、それでも生きる人間を、自分自身を、カフカを描き切った。
次のモチーフは時間である。インタラクティブではなく、一方的に過ぎ去るだけの時間に、人の一生を映す。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)
山村浩二(Koji Yamamura)●アニメーション作家。1964年生まれ。東京造形大学絵画科卒業。「頭山」がアヌシー、ザグレブ、広島をはじめ6つのアニメーション映画祭のグランプリを受賞、アカデミー賞にノミネート、「カフカ 田舎医者」がオタワでグランプリを受賞するなど国際的受賞は40を超える。4月より東京藝術大学大学院教授。