老後の後悔は、お金でも健康でもないかもしれない。認知症になれば、旅行も趣味も、家族との時間さえ思うように楽しめなくなるからだ。だからこそ重要なのは、若いうちから脳を守る習慣を身につけること。元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する下村健寿氏は、その差が休日の過ごし方に表れるという。将来の脳を守るために今日から始めたい習慣とは? (構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
※本稿は、下村健寿『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の一部を引用・編集して作成した記事です。
Photo: Adobe Stock
老後に「後悔する人」の特徴
老後を楽しむために、健康づくりを意識している人は多い。
食事に気をつける。
健康診断を欠かさない。
体力が落ちないように筋トレをする。
どれも大切な習慣だ。
しかし、それだけでは十分ではない。
どれだけ体が元気でも、認知症になってしまえば、旅行や趣味、家族との時間を心から楽しむことは難しくなる。
そこで重要になるのが、「脳」を守る習慣だ。
元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で、認知症予防において意外なほど重要な習慣を紹介している。
運動は、脳の容量低下に対抗するためだけでなく、新しい脳細胞を作る上でも非常に効果的だということです。
(下村健寿著『糖毒脳』より)
運動には、体力を維持するだけではなく、脳そのものを若々しく保つ働きが期待されているのである。
「海馬」をよみがえらせる物質とは?
なぜ運動が脳に良いのだろうか。
その鍵を握るのが、「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質だ。
下村氏は、BDNFを「肥料」にたとえて説明している。
人間の脳は海馬でのみ、新たな神経細胞が発生するとわかっています。
この働きを促してくれる物質が「脳由来神経栄養因子(BDNF)」です。
BDNFは「肥料」のようなものです。
新たな神経細胞になる「タネ」が埋まっている肥沃な土壌である海馬に、BDNFという肥料をたっぷりとかけることで、新たな神経細胞が芽生えて成長していきます。
これが、認知症になりにくい脳をつくることにもつながっています。
(下村健寿著『糖毒脳』より)
さらにBDNFには、神経細胞同士のつながりを増やし、情報伝達を効率化する働きもあるという。
この奇跡のような役割を果たすBDNFを作るために必要なのが、「運動」だ。
近年の研究から、運動をすると筋肉から「ミオカイン」と呼ばれる一連の生理活性物質が分泌されることが明らかになりました。
ミオカインは脂肪や肝臓、膵臓など様々な臓器に作用して代謝を調節したり、全身の炎症を抑制したりと、体にとって非常に良い効果をもたらすことがわかっています。
このミオカインが脳にも直接作用し、脳の中でBDNFの発現を促すのです。
(下村健寿著『糖毒脳』より)
つまり運動は、衰えた脳を守るだけでなく、脳そのものを育てる役割も担っている。
老後を楽しめる人の「休日の過ごし方」
では、認知症予防にはどれほどの運動が必要なのだろうか。
下村氏は、「そこまで頑張る必要はない」と語る。
皆さんにおすすめしたい運動内容は、拍子抜けするほど簡単なものです。
それは、ウォーキングです。
息が軽く切れる程度の早足で、1日30分程度、週に合計で150分以上歩く。
これが、医学研究に基づくアルツハイマー病の予防に有効とされる運動量です。
(下村健寿著『糖毒脳』より)
休日だからといって、一日中ソファで過ごしていてはいけない。
家族や友人と散歩を楽しむ。
季節の景色を眺めながら歩く。
少し遠くまで足を延ばしてみる。
そんな何気ない時間が、将来の脳を守る投資になるかもしれない。
老後を楽しめる人と、後悔する人。
その差は、休日のほんの30分のウォーキングで決まっているのかもしれない。
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








