釣り人に変装した公安が
ロシアのスパイを追った

 早朝、JRの駅近くの釣り堀の前で、開場を待っている、あるいは連れとの待ち合わせをしている、そのどちらともとれるよう釣り人の格好をして、スパイの通過を確認すべくクーラーボックスに腰かけていた。なぜ、そんな手の込んだことをするのかというと、普通の格好で早朝の駅周辺にただ立っていると意外と人目につくからだ。訓練を受けたスパイであれば、それが公安であることをすぐに見抜いてしまう。

 しばらく待っていると、外交官ナンバーをつけた件のスパイの車が目の前を通りすぎた。周囲には5、6人の捜査員がやはり釣り人などの格好をして配置されている。私はすぐに車がどの方向に向かったか連絡をした。彼らはバイクや自転車、車といった手段で、スパイの車の後を追った。

 後で捜査員に聞いたところによると、ロシアのスパイは駅から車で5分ほど走ったところにあるビルに入ったとのことだった。その日、このビルでは民間の団体が主催する日ロ経済のシンポジウムが行なわれることになっていた。これに参加し、協力者を探していたに違いない。このように、変装による捜査も公安の大事な仕事の一つだ。警察に協力的な店にお願いして、店員に変装することもある。バーテンダーに変装し、グラスから対象者の指紋を採取するということもあった。

首相官邸直属「内調」の職員が
ロシアに機密情報を漏らしていた

 日本の首相官邸直属の情報機関に「内閣情報調査室(内調)」がある。おもに内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析を行なっている機関で、かつては内閣調査室の名前がついていた。トップの内閣情報官は警察官僚の指定席。1990年代の終わりから2000年代の初めにかけて内閣情報官(その前は内閣情報調査室長)を務めた杉田和博氏は、安倍晋三元首相、菅義偉元首相の信頼が厚く、官房副長官として歴代最長の在職日数を誇っている。

 情報機関であることから、内調と公安警察とはライバル関係にある。別にライバルを蹴落とそうというわけではないが、公安捜査員が内調の職員を尾行する中で、この職員がロシアのスパイに機密情報を漏洩している現場に遭遇したことがあった。2006年のことだ。