長期連載『コンサル大解剖』の前回記事(『PwC、KPMG…コンサルBIG4が「経済安保」をビジネスに!日本企業への処方箋とは?』参照)では、産業界で重要性が増す「経済安全保障」を巡る、大手総合系ファームのサービスなどをひもといた。前回記事に関連し、本稿ではこの分野の第一人者として知られる、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの國分俊史CESO(チーフ・エコノミック・セキュリティ・オフィサー)を直撃。國分氏は「コンサル業界こそ経済スパイ対策が必須」と唱えるほか、経済安保を巡る日本企業の動きについては世界的な「リマニュファクチャリング(部品の再利用)」の大波が押し寄せると警鐘を鳴らす。また、同氏が当事者となった訴訟の最新状況についても明かしてもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
コンサルティング業界こそ
「経済スパイ対策」が必要
――EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)は今年8月、経済安全保障対策を担うチーフ・エコノミック・セキュリティ・オフィサー(CESO)を新設し、國分氏がそのポジションに就きました。設置の狙いとは。
私は以前から、コンサルティング産業こそ経済安保的なリスクに対処すべきだと指摘してきました。端的に言えば、(機密にアクセス可能な人を決める)「セキュリティ・クリアランス」の体制が築かれていないからです。
これまで私は経済安保の研究者として、個人の見解を発信してきました。ですが、EYの人員規模もこの数年で拡大する中、企業へ助言を行い、経済安保の一翼を担う存在でもあるだけに、コンサルファームとしてこのポジション(CESO)をつくるべきだと提言し、新設して私が就くに至りました。
研究者なら外部から指摘していればいいわけですが、コンサルを手掛ける事業会社としては、あえてリスクを取る側面もあります。とはいえ、今後どのような経済安保リスクが起きるにせよ、われわれも当事者として巻き込まれる可能性はあるわけです。そこで自ら提言し、起こり得る問題の渦中に自ら入ることを含めて、対処する責任を取る必要があると考えました。
――CESOとしての具体的な施策は。
既に実施した取り組みとして、情報システム環境を整備し、(米国立標準技術研究所〈NIST〉が定めるサイバー防衛のガイドラインである)「NIST SP800―171」に社内システムを準拠させました。
米国政府は、先端技術などの国家として保全すべき重要な情報をCUI(機密指定には至らないが適切に保護すべき情報)と指定しています。サイバー攻撃を通じた政府機関の情報漏えいにとどまらず、CUIを扱う企業からの情報漏えいを防ぎ、CUIを守るために、企業へ先ほどのガイドラインへの準拠を要求しています。既に防衛省自体も、取引先に対して同ガイドラインへの準拠を2年後には実行するという政策を出しており、その対応の環境を去年の段階で仕上げました。
もう一つ、コンサル業界は「経済スパイ」対策を行う必要があると考えています。何しろ、コンサル会社は営業秘密に当たるような情報をクライアントから得る立場です。実は、そもそも営業秘密に当たる情報が何か明確に定義するのは難しいうえ、日本では問題が生じても刑法ではなく、民法に基づく形でしか対処しづらい現状があります。
ましてやクライアントが営業秘密指定した情報について、もし経済スパイがそれを外部に持ち出したら、検挙するには情報の収集から始める必要がありますが、どのように刑法へ引っかかるか分からないと警察にも相談できません。
そうした点を念頭に、EYでは提案書の段階から営業秘密に指定し、持ち出した場合は刑法に関わるのだと社内で周知する体制に変えました。これは業界初ではないでしょうか。
最近では、中国政府が自国内で外資系コンサルティングファームを標的とする動きも浮上していますが、それは機密性の高い産業であると認識しているからに他ならないわけです。
次ページ以降では、國分氏が「コンサル業界こそ経済スパイ対策が必要」と唱える真意を明かす。経済安保を巡る日本企業の動きについては、世界的に部品を再利用する「リマニュファクチャリング(リマニ)」の大波が到来すると警鐘を鳴らす。「サプライヤー大国」ともいえる日本の経済が壊滅的な打撃を受けかねない「リマニ」の正体を解説する。また、國分氏といえば古巣のデロイト トーマツ コンサルティングから、社員の引き抜き工作をしたとして、デロイトから訴えられ、22年の東京地裁の一審判決で國分氏に5000万円の賠償の支払い命令が出されていたが、実は今年に入り、新たな展開を迎えていた。訴えの最新状況に関しても、ダイヤモンド編集部に語ってもらった。