「アーティストとして成功するための秘訣は?」と問われたアンディ・ウォーホルは、こう答えました。「しかるべき時に、しかるべき場所にいること、だね」。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんによれば、このぶっきらぼうな回答こそ、経営戦略論における「ポジショニング理論」の本質を表しているといいます。収益性が高く、給料も高い仕事は、どうやって決まっているのか。あなたの給料を決めている「本当の要因」を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

儲かる会社と儲からない会社をわける最も大事なポイントとは?Photo: Adobe Stock

高年収ランキングから消えたテレビ局

――収益性の高い仕事に就けば、給料も高くなるのだと思いますが、そもそも収益性の高い仕事を見極めるにはどうしたらいいのでしょうか。

山口周氏(以下、山口):ポジショニング理論を知っておくといいでしょう。企業の長期的な競争優位は、その企業内部にある能力や資源よりも、その企業の「立地と環境」に大きく左右されるという考え方です。

わかりやすい例を挙げますね。日本の高年収企業ランキングを2004年と2022年で比較すると、興味深いことがわかります。2004年の高収入企業第1位はフジ・メディア・ホールディングス。トップ10のうち、5社が東京キー局のテレビ局で、1社はその放送局と密接なつながりのある広告代理店でした。ところが、これらの企業は2022年のランキングではTBSホールディングスの1社を除いて全て圏外に漏れています。

業界全体で同じような変動パターンを見せているということは、個別企業の経営の巧拙だけが要因ではありません。マイケル・ポーターによれば、それこそが「ポジショニング」です。

立地の魅力度を測る「5つの力」

――「立地の良し悪し」は、どう見極めるのでしょうか。

山口:ポーターは、ポジショニングの魅力度は「5つの力」で分析できるとしています。競合との競争、新規参入の脅威、代替品の脅威、顧客の交渉力、売り手の交渉力の5つです。

2004年以前の東京キー局は、放送免許と巨額の設備投資という高い参入障壁に守られて競合は少なく(競合との競争、新規参入の脅威)、自宅で楽しめるテレビ以外の無料エンタテインメントはほとんど存在しませんでした(代替品の脅威)。広告主は大規模な視聴者にリーチできる唯一の手段としてテレビに頼らざるを得ず(顧客の交渉力)、コンテンツを供給する制作会社は小規模で数も多く、強い交渉力を持つことができませんでした(売り手の交渉力)。5つの力で整理すると、ポジショニング的にいかに恵まれていたかがよくわかります。

この状況を一変させたのがインターネットの普及です。回線スピードが上がり、自宅で楽しめる無料の動画コンテンツが大量に供給されました。それが、年収ランキングの変化を生んだわけです。

決断を「勇気」や「度胸」の問題にしない

――山口さんご自身も、この分析で電通退職を決めたそうですね。

山口:広告は極めて景気感応度の高い産業で、市場規模はGDPの増減と正確に同期します。当時すでに日本のGDPにさしたる成長が見込めないことは明らかで、そこにインターネットという新しいメディアが登場すれば、広告枠の供給過剰で単価は下落し、労働環境が悪化するのは間違いありません。「長期的な収益性の低下と労働環境の悪化は避けられない」というのが、入社6年目の私の結論でした。この結論を出してしまった以上、どんなに居心地が良くても離脱しなければ絶対に後悔する、と自分にハッパをかけて退職したんです。

よく転職や移住について「自分には勇気がない」と言う人がいますが、ライフ・マネジメントにおける意思決定を「勇気」や「度胸」の問題に単純化すべきではありません。大事なのは自分の居場所の趨勢についてどれだけ論理的に考え抜くかという「思考の累積量」です。考え抜いた末に「見通しは暗い」という結果が出れば、勇気や度胸に頼らなくても、人はその場から離脱するためのアクションを取るものです。