リモートワークの浸透は「働きやすさ」の話として語られがちです。しかし『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、この変化がキャリアの「立地の戦略」に甚大な影響を与えると指摘します。キーワードは「仕事の全国大会化」。地元で上位に入っていれば食べていけた時代が終わるとき、私たちはどんな戦略転換を迫られるのでしょうか。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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「住む場所」と「働く場所」が切り離されると何が起きるか
――リモートワークが浸透して数年が経ちました。リモートワークは、我々のキャリア戦略をどう変えるのでしょうか。
山口周氏(以下、山口):まず、リモートワークとは単純に言えば「住む場所」と「働く場所」が離れることです。これはキャリアにおける「立地の戦略」に大きな影響があります。
たとえば、従来の社会なら、ある地域の企業がデザインを発注するとき、直接会ってやりとりできることが大前提でしたから、同じ地域のデザイナーに発注するのが当たり前でした。しかしリモートワークが浸透すると、地元のデザイナーを選ぶ必然性がなくなります。遠方にいたとしても、最も費用対効果の高い相手に発注したいと考えるでしょう。
つまり、それまで地元の市場で上位に入っていれば十分やっていけたのが、立地という条件が解除されると、全国区で上位に入っていないとやっていけなくなるということです。労働市場が「全国大会化」するんです。
逆に言えば、全国で上位に入れれば、これまで取引できなかった遠方の顧客を相手にできるので、売上は今まで以上に上がります。
さらには、いまはまだ日本語という言語の障壁に守られている日本の労働市場も、自動翻訳などの進化で参入障壁が下がれば、全国大会から世界大会へと様相を変えていくでしょう。
「距離とパフォーマンスの関数」は仕事によって違う
――「仕事はやはり人と会ってするものだ」という人もいますね。
山口:最終的には人それぞれの仕事観も関わるので「そうかもしれませんね」としか言えないのですが、ひとつだけ反論すれば、「距離とパフォーマンスの関数は仕事によって異なる」ということは忘れてはなりません。
かつては、パフォーマンスの高い東京のデザイナーより、そこそこでも近所のデザイナーの方が、距離によるパフォーマンス低下が小さい分、発注者にとって価値が高いということが起きていました。しかしリモートワーク環境が整うと、距離が離れてもパフォーマンスがそれほど低下しなくなり、この逆転が解消されます。
農業や製造業のような「モノ」が関わる仕事、マッサージや飲食のような物理財に依存する仕事は大きな影響を受けませんが、多くの事務系の仕事は、立地がもたらしていた優位性に大きな影響を受けることになります。
「ローカルメジャー」から「ネーションニッチ」へ
――全国大会化した市場では、どう戦えばいいのでしょうか。
山口:市場の捉え方の転換が必要です。従来は市場を「地域×職種」で捉えるのが普通でした。地域で区切れば市場規模は小さくなるので、一定の売上を立てるには「その地域内で発生する多様な要望」に応える必要があります。「絞った市場で、多様なニーズに応えます」という「ローカルメジャーの競争戦略」です。
デザイナーの例でいえば、「どんな要望でも、どんなテイストでも、お客様のお望みのデザインを作成します」という戦略をとらざるをえないことになります。
しかし全国大会化した市場で同じ戦略を採ると、埋没してしまい、自分のポジショニングを築けません。求められるのは「全国レベルで特定のニーズに応える」という「ネーションワイドニッチの競争戦略」へのシフトです。
「そのデザイナーならでは」の尖ったポジショニングを構築することが必要になるわけです。
どちらがフィットするかは職種や立地、個人のパーソナリティにもよるので一概には言えませんが、意識したいのは、リモートワークという新しい働き方の浸透によって、私たちの人生に「新しい戦略オプション」が生まれた、ということなのです。





