「いくら稼げば幸せになれるのか?」これは多くのビジネスパーソンにとって永遠のテーマと言えるでしょう。日本では長年、「年収800万円を超えるとそれ以上は幸福度が上がらない」という説が広く信じられてきました。しかし、この常識は最新のエビデンスによって覆されています。話題の書籍『働き方の科学』より、エビデンスに基づいて、収入と幸福度の関係を探ります。(構成/ダイヤモンド社・上村晃大)
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「年収800万円限界説」のウソ
「年収800万円限界説」を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。年収は800万円(7万5000ドル)を超えるとそれ以上は幸福度が上がらないというものです(*1)。
しかし、この研究は15年以上も前のことです。『働き方の科学』では、収入と幸福度の関係を調べた最新研究を紹介しています。
「お金による幸福には限界がある」という結論は、著者の1人であるカーネマン教授自身によって覆されています。
カーネマン教授は、ペンシルベニア大学のマシュー・キリングスワース上級フェローらとともに、新たな論文を2023年に発表しました(*2)。
(中略)新たなデータを使って分析した結果、キリングスワース氏の主張のとおり、幸福度は世帯年収が7万5000ドルを超えても上昇を続け、頭打ちになることはありませんでした。
カーネマン教授は、ペンシルベニア大学のマシュー・キリングスワース上級フェローらとともに、新たな論文を2023年に発表しました(*2)。
(中略)新たなデータを使って分析した結果、キリングスワース氏の主張のとおり、幸福度は世帯年収が7万5000ドルを超えても上昇を続け、頭打ちになることはありませんでした。
なんと、著者によってすでに「年収800万円限界説」は否定されていたのです。よく「お金ばかり追い求めても仕方がない」といった文脈で使われますが、幸福度が頭打ちになることがないとなると、話が変わってきます。
高所得層ほど、幸福度の格差が大きい
さらに『働き方の科学』では、別の研究も紹介しています。
図1は、年収と幸福度の関係を幸福度別に見たものです。最も不幸なグループ(幸福度が下位15%)は、世帯年収が10万ドル(約1550万円)を超えると、それ以上幸福度が上昇しないことがわかりました。
図1 高所得層ほど幸福度の格差が大きい
これは、カーネマン教授らの2010年の論文と整合的です。社会で最も不幸な人々は、パートナーとの別れやうつ病など、お金では解決できない不幸を抱えている可能性があります。
一方、最も幸福なグループ(幸福度が上位30%以上)では、世帯年収が10万ドルを超えると、幸福度がさらに加速する傾向が見られました。
つまり、高所得層ほど、幸せな人と不幸な人の差が大きいということです。最も不幸なグループと最も幸福なグループをまとめて分析すると、この高所得層における違いが平均化され、見落とされることになります。
人によって効果が異なることを、研究者は「効果の異質性」と呼んでいます。
図1 高所得層ほど幸福度の格差が大きい
一方、最も幸福なグループ(幸福度が上位30%以上)では、世帯年収が10万ドルを超えると、幸福度がさらに加速する傾向が見られました。
つまり、高所得層ほど、幸せな人と不幸な人の差が大きいということです。最も不幸なグループと最も幸福なグループをまとめて分析すると、この高所得層における違いが平均化され、見落とされることになります。
人によって効果が異なることを、研究者は「効果の異質性」と呼んでいます。
幸福度別に見ると、まったく様相が異なるということです。
「お金」は幸福の必要条件であっても、十分条件ではない
実は、収入が幸福度に与える影響は、私たちが思っているよりもはるかに小さいことがわかっています。2023年の共同研究論文で示された年収と幸福度の相関係数は、わずか「0.09」でした(*3)。
これは、幸福度の個人差のうち、年収の違いによって説明できる部分は1%にも満たないことを意味します。同じ年収であっても幸福度のばらつきは非常に大きいため、年収からその人の幸福度を予測することはほとんど不可能なのです。
注
*1 Kahneman, D., & Deaton, A. (2010). High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(38), 16489-16493. https://doi.org/10.1073/pnas.1011492107
*2 Killingsworth, M. A., Kahneman, D., & Mellers, B. (2023). Income and emotional well-being: A conflict resolved. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(10), e2208661120. https://doi.org/10.1073/pnas.2208661120
*3 単回帰分析において、相関係数の2乗は「ある要因が、結果のばらつきのうち何%を説明できているか(決定係数)」を表します。したがって、相関係数が0.09のとき、決定係数は0.09×0.09=0.0081≒0.8%となります。
*1 Kahneman, D., & Deaton, A. (2010). High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(38), 16489-16493. https://doi.org/10.1073/pnas.1011492107
*2 Killingsworth, M. A., Kahneman, D., & Mellers, B. (2023). Income and emotional well-being: A conflict resolved. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(10), e2208661120. https://doi.org/10.1073/pnas.2208661120
*3 単回帰分析において、相関係数の2乗は「ある要因が、結果のばらつきのうち何%を説明できているか(決定係数)」を表します。したがって、相関係数が0.09のとき、決定係数は0.09×0.09=0.0081≒0.8%となります。








