部下の自主性を重んじるために、「進め方は君の自由にやっていいよ」と丸投げする。一見、部下の裁量を尊重した器の大きい上司に見えますが、これこそが職場を疑心暗鬼と不公平感に満ちた無法地帯に変える引き金になります。人間が本当にのびのびと力を発揮するためには、適切な境界線(ルール)が必要です。この記事では、書籍『リーダーの仮面』をベースに、ルールを敷くことがなぜ部下にとって「本当の安心感」になるのかを解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「自由にしていいよ」と部下に言う上司が、組織を「最悪の職場」に変えてしまう理由Photo: Adobe Stock

交通ルールのない道路

 40代や50代の管理職になり、

「自分の若い頃のような息苦しい思いをさせたくない」
「主体的な組織を作りたい」

 と考えて、次のように部下に接してしまう人が非常に多くいます。

「細かいことは言わないから、みんなで話し合って決めて」
「ルールは作らないから、自由にやっていいよ」

 しかし、これが大きな間違いです。

 ルールが存在しない「無法地帯」は、部下にとって自由で快適な場所ではありません。

「どこまでが自分の権限なのか」「これを勝手に決めたら、あのベテランの先輩に文句を言われるのではないか」と、部下たちは常に「見えない境界線」を探り合い、空気を読み合うことを強制されます。

 結果として、人間関係は疑心暗鬼になり、ギスギスし始めます。

 積極的な人ばかりが雑務を抱え込んで損をし、サボる人はいつまでも動かない。

 ルール無き自由は、あっという間に「不公平な最悪の職場」を量産するのです。

夏休みの宿題にみる「ルールの真実」

『リーダーの仮面』という本で私は、ルールと個人の自由の関係について、誰もが納得するエピソードを用いて次のように書きました。

ルールを守る側の人にとって、適切なルールがあるほうが楽なはずです。
たとえば、夏休みの宿題を思い出してください。
「なんでもいいから興味のあることを自由に研究して発表しましょう」
「画用紙1枚に好きなものを描きましょう」
このような課題を与えられたことがないでしょうか。
どうでしょう。とてもストレスを感じたはずです。
では、次のような課題に変えればどうでしょう。
「好きな生き物を1種類選び、研究して発表してください」
「最初に画用紙の真ん中に大きな丸を描いてください。そこから連想したものを自由に描いてください」
それぞれ、「生き物」「大きな丸」というルールを追加するだけで、かなりストレスは軽減されるはずです。
リーダーがやることとして、もっとも大事なのが、この「ルールを決める」ということです。
――『リーダーの仮面』より

 適切なルールがあるからこそ、人は余計なストレスから解放され、安心して自分の持てるパフォーマンスを100%発揮できるようになります。

 道路交通法があるからこそ、私たちは青信号を安心して渡ることができるのと同じ構造です。

物わかりの良い上司を演じるな

 定年退職を意識し始める世代だからこそ、一時的な「物わかりの良い、気さくな上司」という人気取りに逃げてはなりません。

「誰が、何を、いつまでにやるか」を明確に言語化したルールを敷き、部下に安心して信号を渡らせること。

 それこそが、リーダーが果たすべき本当の責任です。

 リーダーは仮面をかぶり、組織のために明確なルールを決める責任を引き受けましょう。

 それこそが、部下を本当に成長させ、現役時代の成果を最大化する唯一の優しさなのです。