新しいアイデンティティーは
成長と適応を促す

 Virgil W. Fentersらによる「アイデンティティー構造はいかに新たなアイデンティティーの受容に影響するか――ハイブリッド起業家の事例」(How Identity Structure Influences Identity Adoption: The Case of Hybrid Entrepreneurs)である。第68巻第3号、567~597頁の査読論文だ。

 研究対象は、大学で研究をしながら起業にも取り組む「アカデミック・アントレプレナー」たちだ。人には、「研究者」「起業家」といった複数のアイデンティティーがある。では、そこに新しい顔が加わったとき、人はそれをどう自分の一部として受け入れていくのか。Fentersらは、その過程を詳しく調べた。

 論文によれば、新しいアイデンティティーを持つことは「成長と適応を促す」(such adoptions facilitate growth and adaptation)。そして、新しいアイデンティティーが自分の一部として定着するかどうかは、すでに持っている複数のアイデンティティーが、互いにどう結びついているかに左右されるという。

覆面での経験が
経営に繋がっていく

 最初のモリゾウは、豊田章男を隠すための覆面だった。ところが、その名前で何度も走る。成瀬から運転を教わる。ニュルで悔しい思いをする。クルマを壊す。直す。技術者と話す。また走る。すると「レーサー」「テストドライバー」「クルマ好き」という役割が、単なる仮装ではなくなる。その経験が経営に繋がっていくことになる。

 豊田は2009年6月に社長へ就任し、「もっといいクルマづくり」を経営の軸に据えた。2015年4月には社内のモータースポーツ活動を「GAZOO」の名に統合し、「TOYOTA GAZOO Racing」のロゴを採用した。トヨタは2026年、これを2007年には使えなかった「TOYOTA」の名前を使えるようになった瞬間と説明している。

 ポッドキャストにも、その変化が見える。映画「ワイルド・スピード」にスープラなどトヨタ車が出るとうれしいのか、と聞かれた豊田は即答した。

「スープラが使われること、めっちゃ嬉しいですよ」

 そして、自身が「小さい時から言われまくってきた」ことを明かした。