スープラが映画に登場
豊田が喜ぶワケ
「トヨタの車ってね、以前ね、ローリングって言われたりね、長持ちするけど色気ないよねとかね、いうことを私小さい時から言われまくってきたんですよね」
「壊れない」「長持ちする」は大きな強みである。それでも「色気ない」と言われた記憶を持ち続け、今は映画でスープラが走ることを「めっちゃ嬉しい」と語る。このとき、豊田章男とモリゾウの境目は、ほとんど消えているように聞こえる。
象徴的なのがGRヤリス MORIZO RRである。GRヤリス自体も、モリゾウの「トヨタのスポーツカーを取り戻したい」という思いから生まれた。市販車をレース用にする従来の順序を逆転し、モータースポーツ用車両を市販化する発想で開発された。
2025年、豊田は6年ぶりにニュル24時間へ戻り、GRヤリスを自ら運転した。その知見を反映した特別仕様車が2026年に商品化された。4WD制御には「MORIZOモード」が入り、フロントウインドーにはMORIZOのサインまで付く。
2007年には「豊田章男」と名乗れなかった。約20年を経た2026年には「MORIZO」が商品名になった。
豊田は、三四郎の2人が番組でレーサーネームを考えて遊んでいることに、こう返している。
「お二人は自分が目立つためにやってるでしょ。根本的に違うね、入り口がね」
モリゾウは豊田章男にとって、目立つための名前ではなかった。目立たないため、消えるための名前だった。
消えるための名が
商品名になるまで
Fentersらは、人が持つ複数のアイデンティティーが互いにどう結びついているかによって、新たなアイデンティティーの受け入れ方がどう変わるのかを研究した。モリゾウとして得た感覚も、社長室に戻った瞬間に消えなかった。サーキットで得た言葉で技術者と話し、レースで感じた悔しさを商品開発に持ち込み、「もっといいクルマ」を経営の言葉にした。
2007年には社名も本名も使えなかった活動が、2015年にはTOYOTA GAZOO Racingとなり、2020年にはモータースポーツを起点に開発したGRヤリスが発売され、2026年には「MORIZO RR」が生まれた。
「豊田章男って名前が使えなかったから使ってたんだよね」と豊田は言う。
だが、豊田章男を隠すために生まれた「モリゾウ」の名前で積み重ねた経験が、やがて豊田の経営観や、トヨタの「もっといいクルマづくり」につながっていったのだろう。
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