仰向けに寝転ぶゴリラPhoto:PIXTA

人間と違って言葉を持たないゴリラは、過去の出来事をどのように記憶しているのか。人類学者の山極寿一氏は、26年ぶりにかつて交流のあったゴリラと再会した際、その答えを思わせる行動を目の当たりにしたという。※本稿は、人類学者の山極寿一、獣医・海獣哺乳類学者の田島木綿子『ゴリラ・イルカの仲間を信じる力』(青春出版社)の一部を抜粋・編集したものです。

言葉を持たないゴリラは
出来事をどう記憶するのか

 知性の重要な構成要素の1つに「記憶」があると考えられます。記憶とは、ある出来事が言葉で形作られることで、私たちの中に時間の秩序の中で因果関係をともなって残っていくものと言えるでしょう。

 そうなると、ゴリラの知性を考えるうえで気になるのがゴリラの記憶です。ゴリラにももちろん記憶はあるのですが、言葉を持たないゴリラがそれにどのように向き合っているか。それを象徴する出来事をお話ししましょう。

 それは、アフリカ・ルワンダの森でゴリラの調査をしていたときのこと。突然、強い雨が降ってきたので巨木の幹にあいた大きな穴、木の洞に入って雨宿りをしていたんです。すると、そこにタイタスと名付けた6歳くらいのゴリラの男の子がやって来ました。

 タイタスとは、それまで何度も森で接してきたこともあって、信頼関係ができていました。そのため、私のいる洞に一緒に入ろうとしてきました。ところが洞は狭いので、横に2人が並べるスペースはない。結局、私に正面から抱きつくようにして入ってきたのです。

 タイタスは子どもとはいえ、体重は80キログラムぐらいあります。ゴリラの年齢は人間の2倍で考えますから、人間でいえば12歳。小学6年生から中学1年生くらいの子どものオスのゴリラですが、体格は人間の大人よりも大きいくらいです。

 タイタスは私の肩の上に自分の顔を乗せるようにしてじっと動かないでいると、そのうちに子どもらしく寝入ってしまったのです。その重たいことといったら。でも、どうしようもなく私はそのままタイタスと抱き合っていました。

 ゴリラは一度寝てしまうと、しばらく起きないことはわかっていましたので、これ幸いとばかりに身体のあちこちを触って調べてみました。手はどのくらい大きいのかと自分の手のひらと合わせてみたり、脂肪はどのくらいの厚みだろうかと皮膚をあちこちつまんでみたり……。

 ゴリラは人間より体温が高いので、抱きつかれていると温かい。ジャングルの巨木の洞の中でゴリラにくるまれたまま、モワッとした感覚を味わいながら、1時間くらい種を超えた不思議な一体感を味わいました。

 そして、雨が止んだ後、タイタスは目を覚ますと、何事もなかったかのように出ていったのです。

26年ぶりの再会で
タイタスが見せた「行動」

 これだけなら、ただのゴリラの男の子とのほほえましいエピソードなのですが、実は「続き」があります。その後、ルワンダで内戦が勃発し長いことゴリラの調査に入ることができませんでした。そのため再び調査の機会がめぐってきたのが26年後。タイタスとも26年間まったく会えていませんでした。