そのときも、かつて調査した群れを探しに森に分け入りました。そこでタイタスに再会したのです。
26年の時を経て、タイタスは立派なシルバーバックのリーダーとなっていました。
しかし、鼻の上に刻まれた「T」のような皺の形から間違いなくタイタスだということがわかりました。
タイタスも26年前の
雨の日を覚えていた!?
四半世紀以上の時を経て、私の外見も変わっています。最初は、タイタスは私に無関心で、私のことを認識していないように見えました。
国立公園の規則で、タイタスの群れと接触できる時間は1時間に限られていたし、接触する際にゴリラと8メートル以上の距離を置かねばならないという観光客と同じルールを守らなければならなかったので、タイタスは私に他の観光客に対するのと同じような態度を示していたのです。
『ゴリラ・イルカの仲間を信じる力』(山極寿一、田島木綿子 青春新書インテリジェンス、青春出版社)
しかし、2日目に再び会ったとき、徐々に過去の記憶が蘇ってきたようで、彼のほうから真っすぐに私に近づいてきました。そして、じっと私の瞳を見つめて挨拶のげっぷ音を出した後、大人のオスが絶対に見せない、子どものような「仰向けに寝転がって甘える」ポーズをしたのです。
人間は言葉を使って「あのときはこうだった、あれが楽しかった」などと思い出を語りますが、タイタスは当時の情動を「身体全体で再現する」ことで表現したのです。
彼は26年前の雨の日、私に抱きついた記憶を忘れていなかったのだと思います。ゴリラはヒトのように時間を言語化して「記憶の物語にする」ことはできない一方で、関係性や体験を直接的に五感で覚えているのではないでしょうか。
子どものように笑い声を出しながら、近くの子どもゴリラと遊び始めたタイタスの姿は、あの頃の子ども時代に戻っていました。言葉というフィルターを通さない、純粋で濃密な、五感による「記憶の再現」そのものでした。







