カズハゴンドウカズハゴンドウ Photo:PIXTA

人間とはまったく異なる方法で、濃密な社会を築く海の哺乳類たち。その強い結びつきは、ときに群れを危険に導く一方、驚くべき行動となって表れることもある。海獣哺乳類学者の田島木綿子氏が、シャチやザトウクジラの行動から、彼らの「個」と社会性の不思議を読み解く。※本稿は、人類学者の山極寿一、獣医・海獣哺乳類学者の田島木綿子『ゴリラ・イルカの仲間を信じる力』(青春出版社)の一部を抜粋・編集したものです。

群れごとに訛りや
方言を持つシャチ

 興味深いのは、シャチのポッド(群れ)ごとに「訛り」や「方言」のようなものが確認されていることです。レジデント型やトランジェント型といったグループ間でも、鳴き声のパターンははっきりと違います。

 血縁で結ばれたポッドの中に、その仲間たちにしか通じない独特の旋律がある。それは繁殖期のラブソングであったり、ときには感情の表明であったりもするのかもしれません。人間のような厳密な文法はなくても、彼らが互いに「個」を認識し、高度な社会性を維持するための「共鳴装置」を確実に持っている。そう感じられるのです。

高すぎる社会性が
「集団死」を招いた?

 私がこの「絆の深さ」を最も痛感させられるのは、ストランディングの現場です。2015年、茨城県の海岸に約160頭ものカズハゴンドウが5キロメートルにわたって打ち上がりました。あの光景は、今も目に焼き付いて離れません。

 なぜ、これほど多くの命が一気に失われてしまうのか。感染症や寄生虫によるエコロケーション(反響定位=自分が発した音の跳ね返りを聞き取って、周囲のものの形や位置などを知る能力のこと)の不調など、医学的な原因はもちろん考えられますが、それだけでは説明しきれません。彼らの「高すぎる社会性」ゆえではないでしょうか。

 イルカたちは、仲間の一頭が弱ると、それを見捨てずに守ろうとする傾向があります。もし病気で平衡感覚を失ったのがリーダー個体だったとしたら、群れ全体がリーダーを支えようと寄り添い、共に浅瀬に迷い込み、結果として逃げ遅れてしまう……。

「絆」や「思いやり」と言えば美しく聞こえますが、その社会性の高さゆえに、群れごと全滅してしまうという残酷な現実を突きつけられることがあるのです。

音や身体の共鳴で
社会を生きる海獣

 人間は言葉で社会を描写しますが、クジラやイルカ、アザラシなどの海獣たちは、音や身体の共鳴で社会を「生きている」ように思えます。

 彼らが人間と同じように会話していると考えるほうが親しみやすいかもしれませんが、私はあえて「人間とはまったく違う論理で、彼ら独自の豊かな社会を築いている」と考えてみるほうが、生物学的にずっと面白いし、彼らへの敬意にも繋がるのではないか、という気がしています。

 言葉に頼りすぎる人間から見れば、彼らのコミュニケーションは一見「不完全」に見えてしまうかもしれません。でも、砂浜に横たわる160頭の亡骸を見つめていると、そこには言葉を超えた、あまりにも強固で、逃れられないほどの「繋がり」があったことを、認めずにはいられないのです。