先日、ビジネス書を作っている編集者と飲んだ。

「最近、コミュニケーション本が流行っているんですよね」

 酒臭い息を吐きながら話しかけて来る。

劉備は耳が大きかった

「ああ、そうなの。例えば『聞く力』なんかもそうだね。ベストセラーだから悔しくて読んでいないけど」

 編集者は、売れない作家はベストセラーを読まないからますます売れないんだと言いたげな顔で私を見つめた。

「そればかりじゃないんです。○○や△△など、続々ヒットしているんです。どうですかね」

「僕に、コミュニケーション本を書けというの? 僕は、『話を聞かない男、地図を読めない男』だよ」

 ベストセラー本『話を聞かない男、地図を読めない女』のタイトルのパクリで答えた。

「確かにそうですね。いつもぐだぐだと飲んでおられるだけですものね」

 彼の、私に本を書けという気持ちは、萎えてしまったようだ。

「良いことを教えてあげようか。『聞く力』は読んでいないけど、リーダーに取って『聞く力』は最も大事だよ」

「例えば、三国志の主人公である劉備は、耳が大きくて、自分の目で耳を見ることができたらしいよ。これなんかも人の意見を良く聞くっていうことの象徴じゃないかな。だから諸葛孔明なんて優れた人材を登用できたんだろうね」

「そういう話、もっと聞かせてください」

 彼が、身を乗りだしてきた。