「スキルさえ磨けば、いつかは報われるはずだ」。そう信じて努力を重ねているのに、評価も待遇も一向に変わらない――。そんな停滞感の正体は、努力の量ではなく「順番」の誤解にあるのかもしれない。ベストセラー『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』は、人生を4つの資本を転換していくゲームとして描き出す。今回は、著者の山口周氏に話を聞いた。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

仕事ができない人が通う「共通の場」とは?Photo: Adobe Stock

「実力があれば報われる」が成立しない理由

――『人生の経営戦略』では、人生は「時間資本」を「人的資本」「社会資本」「金融資本」に転換していくゲームだと書かれています。ただ、多くの人はまず「スキルを磨けば収入が上がる」と考えると思うのですが。

山口周氏(以下、山口):そこに大きな誤解があります。金融資本を生み出しているのは、知識・能力・コンピテンシーといった人的資本ではありません。信用・評判・知名度といった社会資本です。人的資本は、間接的にしか影響しない。

「そんなバカな」と思われるかもしれませんが、よく考えてみてください。労働市場で取引の相手側にいるのは、雇用する側の人間です。あなたを採用するかどうか、いくら払うかを決めている彼らの意思決定を左右しているのは、評判や信用といった社会資本なんです。

――なぜそうなるのでしょうか。

山口:理由は単純で、人的資本は外側から見えないからです。

彼らが実際に使っているのは、学歴や職歴や賞罰といった情報、つまり「人的資本を代理的に表明する記号」であって、人的資本そのものではありません。私たちの購買行動と同じですよ。見たことも聞いたこともないメーカーの製品は、いくら「ちゃんとつくられています」と説明されても、なかなか買えませんよね。

金融資本を生み出すのは社会資本であって、人的資本ではない――これはキャリアを考えるうえで非常に重要なのに、多くの人が取り違えている点なのです。

社会資本は「時間を投下しても」貯まらない

――では、その社会資本はどうすれば築けるのでしょうか。

山口:ここで押さえてほしいのは、社会資本を生み出すのは人的資本だということです。時間資本を直接投下しても、社会資本の構築は進みません。

いわゆる異業種交流会は、まさに社会資本を形成するために行われるわけですが、社会資本は、人的資本に裏打ちされた高い水準のパフォーマンスやアウトプットによって初めて構築されます。「あの人に仕事を頼みたい」「あの人なら間違いがない」という評判や信用は、実力の裏付けなしには生まれないんです。

――順番がある、ということですね。

山口:そうです。時間資本を人的資本に変え、その人的資本が社会資本を生み、社会資本が金融資本をもたらす。この順番を飛ばして近道をしようとすると、たいていは徒労に終わります。

20代の私が参加していた「場所」とは?

――山口さんご自身も、苦い経験があるそうですね。

山口:苦笑してしまうような思い出があります。20代の後半、まだ「世界ゲームの原理」がクリアに見えていなかった頃のことです。

仕事はそれなりにこなしていたものの、「自分の人生を生きている」という手応えが希薄で、「こんなことをやっていていいのか」という猜疑に苛まれていました。そんな中、諸先輩方の「人脈が大事」という言葉にいいように踊らされて、随分な数の異業種交流会に参加していたんです。

いま振り返れば、「いきなりスカウトされて要職に抜擢」みたいなことをどこかで夢見ていたのでしょうね。でも、当然ながら、何の人的資本の裏打ちもない私にそんなことが起きるわけがない。最終的には「夢みたいなことを考えていないで、とにかく一歩一歩進むしかない」という当たり前のことを再認識させられました。