にもかかわらず、病院側の見解は変わらず、彼らは「異常者」と判断され続けました。
結局、彼らが退院出来るまでにかかった期間は、最短で7日、最長で52日。平均して19日間もの間、入院を余儀なくされたのです。しかも、退院の条件は非常に厳しいものでした。彼らは「自分は精神疾患を患っていると認めること、そして抗精神病薬の服用に同意すること」を強制されたのです。逆に言えば、これらを認め、服用に同意するまでは退院が許されない状況でした。
「なりすまし」に気づいたのは
医者ではなく患者だった!?
つまり、自分が異常者であると同意しないことには、退院の切符が得られなかったのです。誤診されることの恐ろしさがよく分かります。ちなみに、健康な体で抗精神病薬を服用するのは危険なため、偽の患者たちは飲むふりをしてトイレに流して捨てていました。ローゼンハンは事前にこうした事態を想定し、薬を捨てる練習までさせていたそうです。
さらに興味深いエピソードがあります。
偽の患者たちは、入院中の出来事を公然とノートにメモしていました。実験の経過を記録するためです。ところが病院側は、この行動さえも「筆記行動」という妄想性統合失調症の症状の一種であるとレッテルを貼り、病的なものとして扱いました。彼らが何をしても、すべて精神障害に関連づけられてしまったのです。
しかし、実は実験中、彼らが「なりすまし」であることに気づいた人々がいました。
それは、同じ病院に入院していた精神科の患者たちです。
最初の3件の入院例では、合計118人の患者のうち、なんと35名が「あなたは本当は正気なのではないか」と疑っていました。中には「病院を調べに来た教授かジャーナリストだろう」と見抜く者までいたのです。先入観のない患者たちの目には、彼らがごく普通の健常者に見えていました。逆に言えば、いかに病院関係者が、先入観に基づいて判断していたかが浮き彫りになったのです。







