名ばかり産業医の闇#1Photo:Eric Schallow/EyeEm/gettyimages

全国で10万人以上いる認定産業医のうち、稼働しているのは3万人。専門の産業医ともなればわずか1200人しかいない。その結果、ちまたにあふれているのが選任義務のある事業所に名義だけを貸す「名ばかり産業医」だ。企業にとって能力不足の産業医はリスクでしかないが、一方で企業側にも名ばかり産業医を求めざるを得ない事情がある。特集「名ばかり産業医の闇」(全5回)の#1では、名ばかり産業医が生まれるカラクリを明らかにする。(ダイヤモンド編集部 山本 輝)

産業医の存在意義が危うい
名ばかりが横行する実態とは

「産業保健が機能しない状況が続くことになれば、産業保健制度そのものの存在意義を問われることになる」――。2015年に起きた電通社員の過労自殺。その痛ましい事件は産業界に「働き方」の見直しを迫ったと同時に、産業医界にも大きな衝撃をもたらした。厚生労働省の健康課長(当時)が、日本医師会向けの雑誌で冒頭のように現状への危機感を明らかにするなど、産業医の在り方が厳しく問われるようになったのだ。

 その後、19年に政府が主導した働き方改革の中で、産業医の機能強化を図る法改正が行われた。ただし、一連の働き方改革ではもっぱら長時間労働の規制などに主眼が置かれた。産業医に対する世間の関心も低いままで、産業医の改革はいまだ途上にあるというのが実情だ。

 社員の健康を守る防波堤であるはずの産業医だが、現実には「名ばかり産業医」と呼ばれる産業医たちがはびこっており、働き手の健康が危険にさらされている。こうした現状を放置することは、働き手を抱える企業にとって甚大なリスクだ。

 以降では、名ばかり産業医が跋扈するカラクリを明らかにすると共に、産業医と企業を取り巻く実態をつまびらかにしてこう。