
レビー小体型認知症の症状は、うつ病などと見分けがつきにくく、名医でさえ診断を誤るほどだ。それに加え専門医不足も深刻化しており、レビー小体型認知症の患者のケアはますます困難になっていくと予想される。誤診により、多大な苦しみを負った人を追う。※本稿は、熊谷賴佳『2030-2040年 医療の真実 下町病院長だから見える医療の末路』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。
世界的な脳外科医の
脳に起きた異変
世界的に活躍した医師でも誤診の被害にあうし、豪華な老人ホームに入っても幸せな老後が送れるとは限らない。それを教えてくれたのは、悲しいことに、私の大先輩である世界的な脳神経外科医だった。
「名医も知っているし、お金があるから、2040年になっても自分だけは安泰だ」と考えている人への教訓として、その脳神経外科医の例を紹介しよう。
あるとき、その脳神経外科医X先生が東京都内の高級有料老人ホームに入所したと、知り合いの医師から連絡が入った。「X先生に会うのは最後になるかもしれない」と考えながら訪問してみた。
その有料老人ホームは都会の一等地にあった。二重三重のロックがあり、大理石の玄関を入ると大きなホールがある。廊下にはおしゃれなじゅうたんが敷き詰められ、建物自体も豪華なつくりだった。
有料老人ホームでは、まず、本人に訪問の連絡を入れ、面会の許可をもらわなければならなかった。
しかし、待てど暮らせどX先生からの返事はない。受付の人から、「お部屋におられますから、直接お訪ねください」と言われ、部屋へ向かう。ノックをすると、かすかに「はい」と小さな声で返事があった。