KOSPIが下落する中、ハナ銀行で勤務するディーラーら(ソウル、7月)KOSPIが下落する中、ハナ銀行で勤務するディーラーら(ソウル、7月) JEON HEON-KYUN/EPA/Shutterstock

【ソウル】韓国株式市場は人工知能(AI)ブームに乗り、過去1年の大半において世界で最も過熱した市場となっていた。しかしその後、相場が急落した。

 英語教師のユン・ジェイさん(30)は1万9000ドル(約304万円)を失った。それ以来、生活費を切り詰めており、タクシーの利用を減らし、旅行も控えるようになった。食事を抜くことはダイエットを兼ねている、と自分に言い聞かせている。

「イカゲーム」やK-POPを生み出した韓国は今、世界で最も激しい狂乱相場の舞台となっており、主要市場ではここ数年見られなかったような急変動を示している。韓国の代表的な株価指数である韓国総合株価指数(KOSPI)は、AIブームへの信頼を背景に3倍以上に膨らんだ。メモリー半導体メーカーの サムスン電子 と SKハイニックス は、時価総額が1兆ドル規模に急騰し、同指数の記録的な上昇をけん引する二大勢力となった。

 その後、KOSPIは6~7月の6週間で約40%安と急落し、数十万人の投資家が痛手を負った。これはAI業界に大きく賭けていた人々への厳しい警告となった。ジェットコースターのような値動きは続いており、KOSPIはその後、安値から約20%反発している。

「値動きがあまりにも激しすぎる。これは健全な投資ではない。賭博場であり、カジノだ」。韓国の約1400万人の個人投資家を代表する団体「韓国株式投資家連合会」の鄭義定(ジョン・ウィジョン)会長(68)はそう語る。

 KOSPIの6週間にわたる下げで、約2兆5000億ドル(約400兆円)もの時価総額が吹き飛んだ。その打撃を最も受けたのは、KOSPIの1日当たり売買高の60~70%を占める国内個人投資家だ。こうした投資家は「アリ」と呼ばれ、個々としては非力でも、集まれば大きな影響力を持つ。アリ投資家はAIシステムの学習・運用を支える主要メモリー2種の生産で世界をけん引するサムスン電子とSKハイニックスに強い信頼を寄せ、市場に資金を注ぎ込んできた。

 韓国では5月、同国初となる個別株レバレッジ型上場投資信託(ETF)が導入された。負債やデリバティブ(金融派生商品)などの金融手法を用いるこれらのETFにより、アリ投資家はサムスンとSKハイニックスへの賭けを2倍に増やせるようになった。つまり、どちらかの株価が1日で5%上昇すれば、レバレッジ型ETFは10%上昇することになる。逆に、株価が5%下落すれば、ETFは10%下落する。

 アリ投資家は現在、このような「ハイリスク・ハイリターン」ファンドを認める規制緩和を行ったとして、李在明(イ・ジェミョン)大統領率いる韓国政府を非難している。政府はその後、市場の変動を抑える狙いで、これらETFの取引に関するより厳格な規則を導入した。

 ある個人投資家のグループは、国会に向けて弔意の花輪を送り、そこには選挙での復讐(ふくしゅう)を誓うメッセージや、「虐殺されるアリたち――国会よ、応えよ」という切実な訴えが添えられていた。

 大統領府は、政府が新たな取引規則などを通じて、市場のボラティリティーを管理するために全力を尽くしていると述べた。

 市場の混乱は米国にも及んだ。AI特化型ヘッジファンドのシチュエーショナル・アウェアネスは7月、韓国の半導体株への投資が響き、約67%の損失を計上した。さらに、債務返済のために公開株ポートフォリオの大部分を清算した。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じたところによると、シチュエーショナルは、韓国市場に上場しているSKハイニックス株に関して大量のポジションを保有していた。

 音響エンジニアのユン・ギョンミンさん(44)は、過去2カ月間の株価急落がまだ信じられないと語った。退職後、退職金の半分を半導体株に投資したが、1週間で7200ドルが消え去るのを目にしたという。

「妻に知られたら、本当に大変なことになる」とユンさん。妻には詳細を明かさずに、少しついていなかっただけと伝えた。

 ユンさんは市場が「永遠に上昇する」と考えていた。