起業家やアーティストの成功譚を読むと、「思い切って退路を断ったからこそ成功した」ように見えて、自分もそれくらいの覚悟がなければダメなのではと焦ってしまう――そんな経験はないでしょうか。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さん曰く、これは典型的な「生存者バイアス」。伝説の起業家やロックスターたちが、実は周到に確保していた「選択肢」の話を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

人生で成功するために「20代でやっておくべきこと」とは?Photo: Adobe Stock

私たちは「失敗者の伝記」を読まない

――成功者の伝記等を読むと、「大きなリスクを取ったからこそ成功した」ように見えます。リスクを取れない人は大物になれないのではないかという気がするのですが、どうなのでしょうか。

山口周氏(以下、山口):確かに成功者はリスクを取っていることが多いです。しかし、失敗者はそれ以上にリスクを取って失敗しているんです。私たちは失敗者の伝記を読みませんよね。読むのは成功者の伝記だけです。そこに「リスクを取って起業した」とあれば「なるほど」と考えてしまいますが、これは統計学でいう「生存者バイアス」の典型です。

実際のところはむしろ逆で、成功者ほど以前お話しした「オプション・バリュー」、つまり後から修正や撤退ができる選択肢を保ちながらリスクをコントロールして起業しているのに対して、失敗者ほど大胆にリスクを取っていることがわかっています。

ゲイツは「休学」、ジャガーは「成功が明らかになってから退学」

――具体的には、どんな例がありますか?

山口:ビル・ゲイツがハーバード大学在学中にマイクロソフトを起業した、という話は有名ですが、詳しく調べると話が変わってきます。ゲイツは起業に当たってハーバードを「退学」したのではなく「休学」しているんです。起業がうまくいかなかった場合、すぐに大学に戻れる選択肢を持っていたわけです。

グーグルの創業者二人も、スタンフォード大学を退学せず休学して起業しています。アップル創業者のスティーブ・ウォズニアックはヒューレット・パッカードに、eBay創業者のピエール・オミダイアはゼネラル・マジックに勤めながら、余暇の時間で起業し、本格的に事業が立ち上がってから正式に退職しています。

極めつきはミック・ジャガーでしょう。ローリング・ストーンズ結成時、彼はノーベル経済学賞受賞者を17名も輩出している超エリート校、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの学生でした。学業かバンドかは相当迷ったようですが、ストーンズがファーストレコードを出し、誰の目にも成功が明らかになってから、やっと正式に退学しています。彼らは本業を持ち、リスクをコントロールしながらサイドプロジェクトとして始め、成功してから徐々に足抜けしていったのです。

20代でやるべきこととは?

――どうすれば「オプション・バリュー」を高められるのでしょうか。

山口:いくつかポイントがあります。

キャリアの初期・20代には、普遍的で長期にわたって有用なスキルが身につく職場に身を置くことで、将来的な選択肢を増やすことができます。

教育では、極端に特化した領域だけでなく、どの領域でも活用できるジェネリックな知識や語学を身につけ、「知識を学ぶ」だけでなく「学び方を学ぶ」こと。

住む場所を柔軟に選べるようにしておけば、より良い仕事の機会や生活環境を見つけやすくなります。

ライフスタイルに柔軟性を持たせることで、予期せぬ事態や新しい機会にも迅速に対応できます。

そして、さまざまなバックグラウンドの人々と関係を築くことです。将来的に多様な機会を得ることができます。

これらの要素に配慮しながら、常に「修正」「撤退」「転身」のオプションを自分の手元に持っておくことが、不確実性の高い世界を生きるために求められる構えなのです。