草原にたたずむライオン写真はイメージです Photo:PIXTA

スーパーの精肉売り場には、牛肉、豚肉、鶏肉が当たり前のように並んでいる。ところが、同じ動物の肉でも、ライオンやオオカミを食べる機会はほとんどない。なぜ人間は、肉食動物を食用としてほとんど利用してこなかったのだろうか。理由は、単に「捕まえるのが危険だから」ではない。安全性や味、さらには驚くほどの生産コストまで、肉食動物には「食べる側」にとって大きな問題があった。※本稿は、YouTuberの九和 律『生命・地球・植物・動物・宇宙をめぐる46億年の物語 科学の教養大全』(Gakken)の一部を抜粋・編集したものです。

人が肉食動物の肉を食べない
3つの理由とは?

 現在、人が肉食動物の肉を食べないのには、3つの理由があります。

 1つ目は「安全面」です。ただし、単純に肉食動物を狩るのが危険だということではありません。まず、動物は生きていく中で、潜在的に有害な物質を体内に取り込んでいることがあります。野生動物は本当に何でも食べますからね。彼らが体内に取り込む、寄生虫や微生物、重金属、化学物質の中には、尿などで体外に排出されず体内に残るものも多いのです。

 その動物を他の大型動物が食べると、小型動物に溜まった有害物質をすべて体内に取り込むことになります。これは連鎖的に起こるため、食物連鎖の頂点にいればいるほど有害物質が体内に密度高く溜まっていくのです。たとえばネズミを100匹食べた動物を10匹食べるだけで、ネズミ1000匹分の有害物質を体内に溜めることになります。

 これを「生物濃縮」と言います。生物濃縮によって有害物質が数百万倍に濃縮される動物もいます。たとえばフグやカキが毒を持つのは、生まれた時から毒を持っているだけではなく、自然界で生きる中で、毒のある細菌や生物を餌として食べることでフグやカキは体内に毒を溜め込みます。その他肉食動物は、すべての肉を生で食べることから、寄生虫が蓄積するとも言われています。

食物連鎖の上位では
どんなリスクが高まるのか

 しかし、食物連鎖で上の方に有害物質が溜まっていくのなら、なぜ私たちが大型の魚を食べるのは問題ないのでしょうか?大型の魚もプランクトンや小魚を大量に食べるのに、なぜ肉食動物はダメで魚は大丈夫なのでしょうか?

 これは、陸上の肉食動物の方が、より人間に身体構造が近いからだと考えられます。病気の中には動物にもヒトにも感染する病気、通称「人獣共通感染症」が存在します。鳥インフルエンザや狂犬病などです。

 野生動物の体内のウイルスが人に感染するには、ウイルスにある程度の突然変異が起こらなければなりません。当然ですが、この突然変異は、体の構造が近ければ近いほど小さな変異で良いのです。極論を言えば、同種の動物から同種の動物へは変異がなくともすぐに感染します。

 とはいえ、魚をあまりに食べ過ぎれば問題があります。たとえば、マグロはエサとなる小さな魚が持っていた水銀を食べるので体内に水銀がどんどん溜まっていきます。なので、マグロを食べ過ぎると人間には水銀が蓄積されると言われています。実際、毛髪の分析検査を行うと、マグロをよく食べる日本人は諸外国人と比較して水銀含有量が多いと言われています。

ライオンの肉は
びっくりするほどまずい

 肉食動物の肉を食べない理由の2つ目は「味」です。一般に、「肉が食べたくてたまらない」という時に、本当に求めているものは「脂質」だと言われています。むしろ、肉を欲した時、脂身が切り取られた赤身を食べても飢えは満たされません。むしろ脂肪たっぷりのアイスクリームを食べる方が欲求は満たされるのです。

 しかし、肉食動物は狩りをするため、痩せている場合が多く、脂肪が少ないのです。また、動物の筋肉は筋繊維をバネのように収縮することで運動を生み出します。運動をする動物はこの筋肉が収縮・弛緩を繰り返すうちに太く強靱(きょうじん)になります。

 逆に、運動しない筋繊維は細いです。細い筋繊維の肉はいわゆる「きめが細かい」と言われます。野生の肉食動物のような運動の激しい動物は、筋繊維が太くきめが粗いため、肉質が硬くなるのでまずいとされています。つまりは、マッチョはまずいのです。鍛え上げた筋肉はカチカチですから、そりゃあ肉は硬いでしょう。