自己分析、面接、キャリア面談――事あるごとに私たちは「あなたの強みは何ですか?」と問われます。しかし『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、この定番の問いを「ほとんど無意味であるばかりか、キャリアをミスリードする要因になりかねない」と一刀両断します。根拠は、人間の自己評価がいかにアテにならないかを示した有名な心理学研究。では、何に着目すればいいのでしょうか。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

「自己評価が高すぎる人」が生まれる根本的な原因Photo: Adobe Stock

人間の自己評価は「相当ポンコツ」

――「自分の強み」を軸にキャリアを考えるのは王道に思えますが、山口さんは「自分の強みは何か?」という問いは危険だとおっしゃっていますね。

山口周氏(以下、山口):その問いはそもそもミスリーディングなんです。これまでの研究から、私たちの自己評価には非常に強い上方バイアス、つまり実際の能力よりも上側に誤って評価してしまう傾向があることがわかっているからです。

有名なのは、コーネル大学のデヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーの研究です。

学生たちに文法や論理思考などのテストを実施し、自分の出来を自己評価させたところ、成績の悪い生徒ほど自己評価が高く、成績上位の生徒は自己評価が控え目だったことがわかりました。「ダニング=クルーガー効果」として知られるこの現象は、他にも数多く確認されています。90%の人は自分が平均以上に運転が上手だと思っているというのがその例ですね。

要するに私たちは、「自分は何が得意か」という判断について相当ポンコツな精度しか持っていないんですよ。

だから「何が得意か」を軸足にキャリアを考えることは、ほとんど無意味であるばかりか、むしろミスリードの要因になりかねないのです。

「強み」ではなく「特徴」を抽出する

――では、何を軸にすればいいのでしょう。

山口:経営戦略論のリソース・ベースド・ビュー(RBV)では、競争優位を生む資源の条件として、有用性に加えて「希少性」「模倣困難性」「代替不能性」を挙げます。ひっくるめて言えば、能力や資源の「量」や「質」ではなく「調達困難性」が重要だということです。

この観点に立てば、私たちは「自分の強みは何か?」と考えるのを止めて、「他の人にはない、私のユニークな特徴は何か?」と問い、その特徴をどうキャリアや仕事につなげられるかを考えるべきです。ひと言でいえば「自分で自分のプロデューサーになる」ことが求められるのです。

着眼すべきは「長く続けてきたこと」

――自分の「特徴」を見つけるヒントはありますか?

山口:調達困難な資源や能力とは「時間資本を大量に投下しないと獲得できない資源や能力」のことです。だとすれば、着眼すべきは「長く続けてきたこと」ですよね。自分の人生を棚卸しして、他人と比較して際立って長い時間を投入した活動に、その知識やスキルは関連しているはずです。

私の場合は、学生時代から慣れ親しんできた哲学や歴史や人類学といった人文科学領域がそれに該当します。私自身は、それが将来、労働市場で競争優位になるとはまったく思っておらず、純粋に「ただ好きだから」時間を投下し続けていました。でも、だからこそ膨大な累積時間を投下できたとも言えます。結果的に、経営学ではなく人文学の知識に頼ってコンサルティングを行うアプローチが、私にとってのブルー・オーシャンを生んでくれました。

スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業生に語ったように、私たちは未来を見るとき、同時に過去も見ることで「点をつないでいく=Connect the dots」しかないのです。