独立や起業を考えたとき、「本業を辞めて退路を断ってこそ本気」「腰が据わっていないと成功しない」――そんなイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、5000人以上の起業家を対象にした調査研究から、世間のイメージとは真逆の事実を紹介します。退路を断って挑んだ人と、本業を続けながら「腰の据わらない」挑戦をした人。成功確率が高かったのは、どちらだったのでしょうか。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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やらないこと・ベスト1:「退路」を断たない
――独立や起業というと、「今の仕事を辞めて退路を断つくらいの覚悟がないと成功しない」というイメージがあります。
山口周氏(以下、山口):そのイメージ、実際のデータとは逆なんです。
経営学者のジョセフ・ラフィーとジー・フェンが、5000人以上の起業家に「本業を続けながら起業したか、本業を止めて起業に専念したか」を調査したところ、本業を続けながらサイドプロジェクトとして起業した人のほうが、成功確率がずっと高いことが明らかになりました。
投資家の立場で考えてみてください。「本業を続けながら起業する人」はなんとも腰の据わらない弱々しい印象を与え、「本業を止めて専念する人」はいかにも潔く自信に満ちて見えます。後者を選びたくなるのが人情でしょう。しかし実際の結果は真逆だったんです。
安全地帯があるから、大胆になれる
――なぜ、そんな逆転が起きるのでしょうか。
山口:一見不可解ですが、合理的な理由があります。
私たちは、「本業を止めて専念する人」のほうが、大胆にリスクを取って果敢に挑んでいるようなイメージを持ちますよね。でも、実際には真逆の傾向があるんですよ。リスクを嫌って安定した収入をもたらす本業を続けながら起業した人ほど、副業で大胆なリスクを取ることができたんです。一方、リスクを厭わず大胆に起業に専念した人ほど、実際にはリスクが取れずに小粒な取り組みに終始する傾向があり、失敗しているんです。
生活の基盤が脅かされている状態では、人は本当に大胆な勝負ができません。一般的なイメージと違い、「臆病」というのは実は非常に重要なコンピテンシーなのです。
「選択肢が減る意思決定」は常に悪手
――「安全地帯を残しておくから大胆になれる」というのは、起業に限らずいろいろな場面で使える考え方のように思います。もう少し一般化して理解するには、どう捉えればいいのでしょうか。
山口:「オプション・バリュー」という考え方を知っておくと良いでしょう。
文字通り「選択肢の価値」のことで、意思決定の対象となる選択肢には、経済的価値があると考えるんです。
企業経営には高度の不確実性が伴うため、何が起きても方針転換や撤退等の複数のオプションが取れることは死活的に重要です。逆に言えば、「オプションが減る」意思決定は、その時点で具体的な損失がなくても、基本的に「常に悪手」と考えるべきなんです。本業を辞めて起業に専念することは、まさに自分の「撤退」や「修正」というオプションを手放す行為だったわけです。
昨今「選択と集中」という用語を経営の王道のように乱暴に振り回す人がいますが、不確実性が増す状況で基本的に求められるのは、真逆の「保留と分散」です。すぐに意思決定を下すのではなく、状況がより明確になるまで選択肢を保留することに価値を置くのがオプション・バリューの考え方です。
不確実性の高いこれからの時代、常に「修正」「撤退」「転身」のオプションを手元に持っておくこと。それが、思い切った挑戦を可能にする土台になります。





