顧客のニーズは聞いている。提案もそれに合わせている。それでも、なぜ売れないのか。本稿では書籍『ビジネスメイキング――売上と信頼が積み上がる「仕組みのつくり方」』の内容を一部抜粋・再構成し、そのヒントをカルティエの腕時計誕生から探る。ルイ・カルティエが見つけたのは、「時間を知りたい」というニーズではなく、「操縦中に手を離さず時間を確認したい」という具体的な不便だった。商売で大切なのは、顧客の言葉をそのまま受け取ることではない。誰が、どんな場面で、何に困っているのか。そこまで価値を分解して初めて、本当に売るべきものが見えてくる。

「顧客のニーズは聞いているのに売れない」→カルティエの腕時計に学ぶ“商売の本質”とは?Photo: Adobe Stock

 もともと時計は、懐中時計として持ち歩くのが一般的でした。時間を知るという価値はすでに存在していましたし、懐中時計はその役割を十分に果たしていました。

 もし価値を「時間を知ること」とだけ捉えるなら、そこに大きな不足はなかったはずです。

 しかし、飛行家アルベルト・サントス=デュモンにとっては、事情が違いました。飛行機を操縦している最中に、懐中時計を取り出して時刻を確認するのは難しい。ここで問題になっていたのは、「時間を知りたい」という一般的なニーズではありませんでした。「操縦中に、手を離さずに時間を確認したい」という、もっと具体的な行動の中にある不便でした。

 ルイ・カルティエは、そこに目をつけました。そして、腕に着けたまま時刻を確認できる時計を考えました。これが、のちにサントスとして知られる腕時計につながっていきます。

 ここで起きたのは、時計の価値を発明したことではありません。すでにあった「時間を知る」という価値を、使う人の行動に合わせて設計し直したことです。時間を知る価値は同じでも、「誰が」「どんな場面で」「どのように確認したいのか」まで分解すると、まったく別の形が見えてきます。

 営業でも同じことが起こります。顧客は「効率化したい」「安心したい」「コストを下げたい」と言います。

 しかし、その言葉をそのまま受け取るだけでは足りません。どの作業で詰まっているのか。誰が困っているのか。どの瞬間に不安が生まれるのか。どの判断軸で選ぼうとしているのか。そこまで設計して初めて、自社の商品やサービスが持ち得る本当の意味が見えてきます。

 価値を分解するとは、商品の説明を細かくすることではありません。顧客の行動や判断を細かく見ることです。その単位まで降りていくと、同じ商品でも、どの価値を前に出すべきかが見えてきます。