睡眠学の世界的権威・柳沢正史先生が、最新の研究をもとに「睡眠の正解」をわかりやすく解説。発売が待たれる、柳沢先生初の書き下ろし著書『世界最高の睡眠学が教える 睡眠の正解』から、「ちゃんと寝たはずなのに疲れがとれない」「もっと早く寝たいのに、つい夜更かししてしまう」といった身近な悩みや、巷にあふれる睡眠の常識・思い込みについて、一足先に紹介します。正しい睡眠を知り、本来の自分とよりよい明日を取り戻すためのヒントをお届けします。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・中村直子)

【ラスカー賞受賞】柳沢正史教授が語る「睡眠学」とは? 人はなぜ眠り、なぜ眠れなくなるのか

アメリカでは当たり前に睡眠が研究されている

 睡眠学、聞き慣れない言葉だと感じた方もいるかもしれません。それは無理もないことです。日本では、睡眠をひとつの独立した学問としてとらえる発想が、まだ十分に根づいていないからです。

 アメリカでは“Sleep Science (スリープサイエンス)”や“Somnology (サムナラジー)”といった表現が使われ、睡眠研究や睡眠医療が発展してきました。睡眠はきちんと研究され、体系化されるべき対象として扱われているのです。

 睡眠は誰にとっても身近なものです。毎日のことですし、多くの人がなんらかの悩みを抱えている。それなのに、それを体系的に研究し、学ぶための言葉も場所も、日本にはまだ十分に整っていません。

 つい最近まで、医療の世界ですら“睡眠”という言葉が前面に出てきませんでした。医学部のカリキュラムでさえ、いまだに睡眠をろくに教えていません。厚生労働省がようやく“睡眠障害”を医療機関の看板や広告(標榜)に加えたのは2026年6月のこと。これにより、やっと「睡眠障害内科」「睡眠障害耳鼻咽喉科」「精神科(睡眠障害)」といった表記が可能になりました。

 それほどまでに、この国では睡眠への科学的な取り組みが遅れていたのです。

人はなぜ眠るのか? なぜ眠れなくなるのか?

 では、睡眠学とは何か。ひと言でいえば、眠りのサイエンスです。目的はただ1つ、睡眠の正体を知ること。人はなぜ眠るのか、眠っているあいだに脳と体に何が起きているのか、なぜ眠れなくなるのか、睡眠不足は何を壊すのか、どうすればよりよい眠りを守れるのか……。こうした問いを、経験則や根性論ではなく、科学の言葉で解き明かしていく学問です。その守備範囲は、驚くほど広いものです。

 脳の仕組みを探る神経科学、睡眠を制御する遺伝子を調べる分子生物学、夢や意識を考える心理学。
不眠症や生活習慣病を考えれば、臨床医学とも深く結びついてくる。

 さらには社会の制度や教育のあり方や、人々の睡眠に対する考え方にまで視野を広げれば、公衆衛生学や社会学や教育学ともつながります。

 睡眠学とは、脳の中だけを見ていればよい学問ではありません。人間そのものを丸ごと見る学問なのです。

あなたの人生のバイブルとして

 本書を単なるハウツー本に終わらせるつもりはありません。もちろん、眠りを改善するための実践的な知識はたくさんお伝えします。枕の選び方も、部屋の明るさの整え方も、入浴のタイミングも……。

 ただし、知識よりも先に変えてほしいものがあります。それは、睡眠に対する見方そのものです。「睡眠とはこれほどまでに大きなものだったのか」という気づきがなければ、どんな知識も長続きしません。

 巷にあふれる根拠のない睡眠法に振り回されるのは、もう終わりにしましょう。科学に裏打ちされた正しい知識が、あなたの睡眠とのつき合い方を根本から変えてくれます。

 願わくは、この本があなたの眠りのバイブルになってほしい。

 眠れない夜にだけ開く本ではなく、これまでの常識を静かに揺さぶり、これからの生き方の土台を整える1冊として、いつも手元に置いてもらえるなら、これ以上の喜びはありません。