定年を迎え、再雇用で給料が下がり、65歳が来て縁が切れる。多くの人はこの道筋しか知らないが、法律にはもう1本、雇用によらない道が用意されている。施行から5年、それを選んだ会社は全国で132社にとどまる。ピーター・F・ドラッカーが『ネクスト・ソサエティ――歴史が見たことのない未来がはじまる』で、誰もが70代半ばまで働かなければならなくなると書いたのは2002年。その25年後は、来年である。本連載では、膨大なドラッカーの著作を読み返し、その中から令和の現在に役立つ知を取り出して紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

3つの数字が示す空白
厚生労働省の「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」(2025年6月1日現在)に、3つの数字がある。65歳までの措置はほぼすべての会社が実施し、70歳までの措置も3社に1社まで進んだ。そして、0.1%がある。
前の2つは、法律が企業に求める措置の実施率である。65歳までが義務、70歳までが努力義務だ。義務の部分はほぼ完全に守られ、努力義務のほうも着実に広がっている。では最後の0.1%、実数にして132社とは何か。
70歳までの就業確保措置には、5つの選択肢がある。①定年制の廃止、②定年の引上げ、③継続雇用制度の導入、そして④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度、⑤同じく社会貢献事業に従事できる制度の導入である。④と⑤は雇用ではない契約で、あわせて「創業支援等措置」と呼ばれる。132社は、この④と⑤を合わせた数字である。
報告したのは、常時雇用する労働者が21人以上の全国23万7739社。そのうち70歳までの措置を実施済みなのは8万2748社で、132社はその中の数にすぎない。627社に1社である。
この空白を読み解く手がかりが、『ネクスト・ソサエティ』にある。2002年に刊行された、ドラッカー最晩年の一冊である。
問われたのは年齢ではない
本書には、25年後には誰もが70代半ばまで働かなければならなくなる、と書かれている。だが本書が中心に置いたのは、働く年齢の上限ではなかった。
いまから20年後あるいは25年後には、組織のために働く者の半数は、フルタイムどころかいかなる雇用関係にもない人たちとなる。特に高年者がそうなる。
――『ネクスト・ソサエティ』より
働く年数が伸びる、という話ではない。半数が雇用関係そのものを失い、会社に属さない形で働くようになるという話であり、それは特に高年者に集中する。
定年が何歳まで延びるかを議論している間に、ドラッカーは会社に属さない働き方こそが主流になると見ていた。
問うべきは、何歳まで雇うかではない。雇用関係のない人と、どう向き合うかである。
本書の刊行は2002年、ドラッカーが92歳のときである。その25年後にあたる来年を待たず、日本は2021年4月にすでに④と⑤を制度に加えていた。
内部化したアウトサイダー
本書は、人事管理が行うべきことを2つ挙げる。第一が、雇用関係の有無にかかわらず、働く者すべてを対象とする人事を確立すること。第二が、定年に達した人や契約ベースで働く人を引き留めることである。
経験と能力のある高学歴の高年者を引退させることなく、内部化したアウトサイダーとして継続した関係をもち続けてもらうことである。彼らの能力と知識を維持するとともに、彼らに対しては柔軟性と自由を提供することである。
――『ネクスト・ソサエティ』より
組織の外にいながら、組織の中に留まっている人。それが「内部化したアウトサイダー」である。
ドラッカーは、その関係が成り立つ条件を書き添えている。渡すのは、柔軟性と自由である。仕事を与えることではなく、時間と裁量を相手の手に戻すことが条件に置かれている。
ただし、ドラッカー自身もこの仕組みを万能とは考えていなかった。本書が挙げる適用例は法務、税務、研究開発といったスタッフ的な仕事であり、製造や販売など現業の人たちについては別の方法が必要かもしれない、と留保が添えられている。
なぜ132社で止まるのか
創業支援等措置を導入するには、労働者側の同意を得て、周知したうえで、一人ひとりと契約を結ぶという手順を踏む必要がある。労働契約ではないため、社会保険は適用されない。労災保険も、自ら手続きをして加入する形になる。
「業務委託にされたら、安く使われるだけではないか」。この警戒は的外れとは言い切れない。手続きの側は細かく定められている一方で、雇用から外れた人が何を受け取るのかは、条文のどこにも書かれていないからだ。
では、外れた相手には何を渡せばよいのか。ドラッカーは、その見本を1つだけ挙げている。
誰が、何を渡すのか
ドラッカーが「よい見本」と呼んだのは、学界の名誉教授の仕組みだった。望めば教え続けられ、報酬は授業のコマ数に応じて支払われる。時間と裁量が、本人の手に残ったままになっている。
日本の名誉教授は称号であって、報酬を伴う職ではない。名前は共通でも、中身は別である。
ドラッカーは雇用を外せと書いたのではない。外した相手に柔軟性と自由を渡せと書いた。日本の制度は、渡すものを決めないまま、外す条項だけを先に整えたことになる。
雇用の外に道を通すために、何を渡せばよいのか。ドラッカーが見通した25年後は、来年である。





