詐欺師のテクニックにご用心

 佳枝のリウマチは年々悪化している。それでも辛抱強くつきあってきたその精神性の高さ。でも次第に、耐えられなくなっている彼女に、りんは「怒ってやりましょう」と言い出す。佳枝が内に気持ちを閉じ込めてしまっていると感じていたことを、思い切って外に出す試みだ。

 ユーモアのあるりんやツヤの言い方に佳枝の心もすっきりしていく。

 これは、りんが守破離したことを意味しているのかもしれない。

 しんどいことがあったとき、我慢するばかりが美徳ではない。心の安定のためには、ときには、愚痴ることも必要なのだ。そしてそれを受け止めてくれる人はそばにいるとなおいい。

 その頃、直美はどうしているか。寛太との別れが訪れている。

「この国を出ることにした」と寛太。

「規則だかなんだか知らねえが、何かと線引いちゃ、内か外かを決めたがるだろ」
「今に世の中線だらけになるぜ」

 だから大陸に出て、そこでまた稼ぐというのだ。

「生きのびてやるよ、俺は」と相変わらずギラギラしている。

 ふと、直美に「一緒に行くか」と誘う。

 ドキっとさせるテクニシャンである。

 直美が行くわけもない。

 別れ際、直美は寛太の本当の名字を聞く。

「小日向で」と答える寛太。それは最初に会ったとき、海軍の軍人に変装していたときに名乗った名字だった。

 これもまたドキっとさせるテクニック。

「一緒に行こう」と誘ったあとに、え、偽名じゃなくてホントの名字だったの? それとも最後まで教えないって意味だったの?と心を揺さぶってくる。

 こういうやり方で、なかには心がふらっと動いてしまう人もいるだろう。

 ここでは2つの解釈がある。

 寛太は、ほんとはずっと直美が好きだったのではないかという解釈。

 いや、寛太はいつもその都度、適当なことを言っていて(その瞬間は嘘ではないという)その言葉に確実性はないという解釈。

 どちらでもいい。

 そして思うのは、人の心をくすぐる仕事という点において、寛太の仕事と脚本家は似ている。

いま「壁にぶち当たっている人」に届けたい、千利休の教え〈風、薫る第127回〉
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