個人投資の歴史と市場の広がりにおいて日本の何歩も先を行く米国において、富裕層はどのようにして分散投資を実践しているのでしょうか? 『AIバブル後の投資戦略』より紹介します。

富裕層Photo: Adobe Stock

 米国の富裕層の資産運用を理解するうえで重要なのは、「何に投資しているか」だけではない。「どの単位で投資を管理しているか」も重要である。資産規模が大きくなると、株式、債券、ETF、投資信託、退職口座、信託口座、勤務先株式、不動産、事業持分などが積み重なり、全体像は急速に見えにくくなる。分散しているつもりでも、実際には同じ大型テック株、同じ業種、同じ金利リスク、同じドル資産に偏っていることがある。富裕層の運用で難しいのは、商品を増やすことではなく、全体設計として管理することなのである。

 この課題に対応する仕組みとして、米国で普及してきたのがUMA、すなわちUnified Managed Account(統合管理口座)である。UMAは、個別株、債券、ETF、投資信託、SMA(個別管理口座)などを1つの口座内にまとめ、ポートフォリオ全体として管理する仕組みである。ただし、その本質は「口座を1つにすること」ではない。UMAの中では、資産や運用戦略を「スリーブ」と呼ばれる管理単位に分ける。スリーブとは、同じ一着の服につながっていながら役割ごとに分かれた袖のようなものである。法律上の別口座というより、運用上の区画と考えるとわかりやすい。

 たとえば、あるUMAの中には、米国大型株スリーブ、米国小型株スリーブ、国際株スリーブ、債券スリーブ、ETFを使った市場連動スリーブ、個別株で指数に近い値動きを作るダイレクトインデックススリーブ、現金管理スリーブなどが並ぶ。富裕層の場合には、地方債による非課税収入を狙うスリーブ、ESGや宗教上の理由で特定銘柄を除外するスリーブ、創業株式や勤務先株式を時間をかけて処分する移行管理スリーブ、場合によってはオルタナティブ投資に近いスリーブが加わることもある。

 この構造の利点は、専門性と統合性を両立できる点にある。米国株は株式運用者が、債券は債券運用者が、税務管理は税務オーバーレイの担当者が見る。一方で、投資家から見れば全体は1つのポートフォリオである。各スリーブが独立して優秀でも、全体として同じ銘柄を重複保有したり、売買のタイミングが税務上不利になったりすれば意味がない。UMAでは、アドバイザーやプラットフォームが資産配分、リスク、税金、現金需要を横断的に調整する。いわば、複数の演奏者を束ねる指揮者を置く仕組みなのである。

 UMAの中で実行される代表的な戦略は、第一に資産配分とリバランスである。株式が上昇して比率が高くなれば一部を売り、債券や現金を補う。逆に市場下落時には、目標配分に戻すために株式を買い増すこともある。重要なのは、商品ごとの成績ではなく、口座全体のリスク許容度や目的に照らして調整される点である。

 第二に、税務戦略である。米国の課税口座では、税引き前リターンよりも税引き後リターンが重視される。UMAでは、含み損のある銘柄を売却して利益と相殺するタックス・ロス・ハーベスティング、年間の実現益に上限を設けるゲイン管理、どの取得単価の株を売るかを選ぶロット管理、短期間で同じ銘柄を買い戻すことによる税務上の不利益を避ける管理などがおこなわれる。複数のスリーブを横断して損益を見られるため、戦略ごとに口座が分かれている場合よりも税務上の調整余地が広がる。

 第三に、個別事情の反映である。勤務先株式を大量に持つ経営者であれば、同じ企業や同業種への追加投資を避ける必要がある。創業者が事業売却で得た株式をすぐに売れば多額の税金が発生するため、時間をかけて市場ポートフォリオへ移行することもある。寄付、相続、教育資金、生活費の引き出し予定も運用設計に影響する。UMAは、こうした事情を各スリーブに落とし込みながら、全体の整合性を保つための器である。

 実際、米国のマネージド・アカウント市場では、UMAの存在感が高まっている。Cerulli Associatesによれば、米国のマネージド・アカウント資産は2024年に13.7兆ドルに達し、UMAは同年に2577億ドルの純流入を集め、プログラム類型別で最大となった。背景には、投資家が単なる商品販売ではなく、税務、承継、価値観、流動性まで含めた継続的な管理を求めるようになったことがある。

 ただし、UMAは損失を防ぐ魔法の口座ではない。成果を決めるのは、スリーブに入る戦略の質、全体を調整するアドバイザーの力量、コストに見合う複雑性が本当にあるかである。

 富裕層にとっての分散投資とは、保有商品を増やすことではない。複数の戦略をスリーブとして整理し、それらを1つの設計図のもとで統治することである。UMAの普及は、資産運用の主役が「商品選び」から「ポートフォリオ運営」へ移っていることを示している。