良かれと思って伝えた情報で、なぜか人が離れていく……。SNSで見た過激な主張や「真実」を鵜呑みにし、周りに強くアピールしては拒絶されて激怒する人がいる。本人は正義感のつもりでも、気づけば孤立の原因に。「安心したい」という脳の本能が招く罠と、大切な人間関係を守るための考え方を『すべて本能のせい』から解説する。(ダイヤモンド社書籍編集局・菱沼美咲)
Photo: Adobe Stock
本当に大丈夫だろうか
「自分はネットのデマや怪しい話には騙されない」
そう思っている人ほど、知らず知らずのうちに特定の極端な考え方にのめり込み、周囲との間に深い溝を作ってしまうことがある。
あなたの周りにもなぜか偏った主張を繰り返し語り始めるようになった人はいないだろうか?
「真実を見つけた」と信じ込む友人
友人に久しぶりに会ったときの話だ。
昔話に花を咲かせていたのだが、会話の途中で突然友人がトーンを変えてこう語り始めた。
「今の世の中の出来事って、全部裏で繋がってるんだよ」
聞けば、最近SNSで特定のテーマについて調べているうちに、「誰も教えてくれない真実」にたどり着いたのだという。
こちらが「でも、それって一部の極端な意見じゃない?」と返しても、「あなたは何も分かっていない」と聞く耳を持たない。
昔はもっと穏やかな性格だったはずなのに、どこか常にイライラしており、周囲の意見を全て敵視するようになっていた。
脳は「複雑な現実」に耐えられない
私たちはなぜ極端な説に引き寄せられてしまうのか。
その理由について、『すべて本能のせい』ではこう語られている。
だからこそ、複雑で説明のつかない難しい現実よりも、「あいつのせいでこうなったんだ」と誰かを犯人にできるシンプルな説明のほうを、どうしても好んでしまう傾向があります。
インターネット上にあふれる陰謀論は、まさにこの「すっきり安心したい」という脳のニーズにぴったり応えてくれる存在なのです。
おまけに、一度「これが原因だ!」と思い込んでしまうと、脳は自分の考えに都合のいい情報ばかりを集め、反対の事実を無視してしまう癖(確証バイアス)を持っています。
さらに同書では、SNSの構造がこの脳の癖を急速に悪化させる仕組みをこう指摘する。
よく分からない曖昧な情報が増えたことで、脳が「裏の意図」を勝手に妄想する機会ばかりが増え、その推測の正確さは落ちていきます。
さらに、SNSや動画プラットフォームのアルゴリズムは、感情を喚起しやすいコンテンツや、関心を引きやすいテーマを優先的に画面に映し出します。
そのため、私たちの疑いや不信感をさらに煽(あお)るような情報が、何度も繰り返し届くようになるのです。
その結果、脳の危険を察知する回路が過剰に刺激され、陰謀論的な思考をどんどん信じ込みやすくなってしまいます。
本人が愚かだからでも、性格が歪んでいるからでもない。
「複雑な現実を解き明かして安心したい」という脳の仕組みが、感情を煽るアルゴリズムと噛み合ってしまっているだけなのだ。
「安心したい欲求」が奪っていくもの
一度「悪者」や「真実」を作り上げてすっきりする快感を覚えてしまうと、脳はそれ以外の複雑な事実を受け入れられなくなる。
その結果、周囲の人間関係を壊し、孤立を深めていくことになるのだ。
世の中の出来事は、往々にして複雑で、誰か一人のせいにはできない白黒つけがたいものばかりだ。
「よく分からないこと」を「よく分からないまま置いておく」。
その曖昧さに耐える心の余裕を持つことこそが、ネットの不確かな情報から大切な人間関係を守ることにつながるのである。



