三国志の蜀を滅亡へ導いた「戦犯」なのか、それとも滅びを避けるために戦い続けた名将なのか――。諸葛亮の後継者として北伐を繰り返した姜維は、今なお評価が大きく分かれる人物だ。国力で圧倒する魏を前に、守ればじり貧、攻めれば国力を消耗する。そんな「どちらを選んでも苦しい」状況で、なぜ姜維は攻め続けたのか。『地図で学ぶ深読み世界史』の著者が、地理と国力の差から姜維の決断を読み解く。そこから浮かび上がるのは、「勝ち目が薄いとき、人は何を選ぶべきか」という、現代にも通じる問いである。
「守っても負ける」蜀が抱えていた残酷な国力差
三国志で姜維という人物は評価が分かれる。諸葛亮の後継者として北伐を繰り返し、蜀の国力を消耗させた人物と見ることもできる。一方で、蜀が生き残るためには、攻め続けるしかなかったと考えることもできる。
姜維の面白さは、この「やっても苦しい、やらなくても苦しい」という状況の中で戦い続けた点にある。蜀が支配した益州は豊かな土地だった。しかし、人口や生産力で見れば、華北を押さえる魏の方が圧倒的に有利だった。時間がたてばたつほど、その差は広がりやすい。蜀が守りに徹して国力を温存したとしても、魏の方がさらに大きな国力を蓄えれば、最終的には押し切られる可能性が高い。
そう考えると、姜維の北伐は単なる好戦性ではなく、「現状維持では負ける」という認識から生まれた戦略とも読める。魏の領土を少しでも削り、新たな人口や生産基盤を確保できれば、状況は変わるかもしれない。
「勝ち目の薄い賭け」でも姜維が北伐をやめなかったワケ
もちろん、それが成功する保証はない。むしろ現実には、遠征を続けるほど兵糧も兵士も消耗し、国内の負担は重くなる。姜維の戦略は成功確率の低い賭けだった。しかし、何もしなければもっと確実に負けるのだとすれば、低い可能性に賭けることにも合理性はある。
姜維が魅力的なのは、勝算が薄いことを知らなかったからではない。むしろ厳しい現実を理解した上で、それでも時間という敵に抗おうとしたように見えるところだ。
後世からなら「無理な北伐で国を疲弊させた」と批判できる。しかし、当事者には攻めないという選択肢にも大きなリスクがあった。詰んでいるように見える局面で、それでもわずかな逆転の目を探す。「勝ち目が薄いとき、何を選ぶか」という普遍的な問題を背負っているからこそ、姜維は魅力的なのである。
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第1部 シーレーン――世界の命運を握る「3つのチョークポイント」
第1章 マラッカ海峡、2000年におよぶ交通の要衝
第2章 ホルムズ海峡、「オイルロード」の起点
第3章 アフリカの角、海上交通の大動脈を巡る戦い
第2部 北西航路――世界地図を塗り替える北極海
第1章 第三の航路を求めて――後発諸国の挑戦
第2章 科学と冒険 19~20世紀の偉業と悲劇
第3章 北極海航路 アメリカ、ロシア、中国の暗闘が始まる
第3部 アルプス交通路――近代欧米を読み解くためのスイス
第1章 スイスの歴史 ヨーロッパ屈指の経済圏
第2章 軍事強国と宗教改革 資本主義が生まれた瞬間
第3章 海を渡ったカルヴァン派とアメリカの宗教政治
第4部 巡礼交易路――十字軍とヨーロッパ拡大の原点
第1章 巡礼 十字軍と中世経済を支えたもの
第2章 北方十字軍 「ヨーロッパ」の東方拡大
第3章 東方植民とダンツィヒの悲劇
第5部 シルクロード――「帝国の墓場」アフガニスタンの宿命
第1章 ラピスラズリ 世界を魅了したアフガニスタンの「青」
第2章 シルクロードの中継地 アフガニスタン
第3章 アフガニスタンのイスラーム化
第4章 アフガニスタン王国の夜明けとパシュトゥーン人
第5章 アフガニスタンをめぐる帝国の攻防
第6章 二度の世界大戦と王政の崩壊
第7章 帝国の墓場、アフガニスタン
第6部 内陸交通路――もう1つの東南アジア史を読む
第1章 東南アジアの隠れた要衝、ラオス
第2章 第2次世界大戦とベトナム戦争
第3章 ラオス再評価「一帯一路」の中継点として
第7部 大河と資源――コンゴが変えた世界史
第1章 コンゴ王国 奴隷貿易が変えた中部アフリカ
第2章 コンゴ探検が生んだ植民地支配とウラン資源
第3章 コンゴ動乱 独立が生んだ冷戦と資源紛争