仕事では頼られていたのに、定年後、気づけば誰からも声がかからない。性格が悪いわけでも、話が下手なわけでもない。むしろ話はうまいほうだった。ではなぜ誘われなくなるのか。ヒントになるのが、アパレル史上最年少で上場した株式会社yutori社長・片石貴展氏の著書『自分の言葉で話せるようになりましょう。』だ。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 淡路勇介)

定年後Photo: Adobe Stock

誘われなくなる人は、話が「うまい」まま

久しぶりの集まりで近況を聞かれると、元部長は現役時代に手がけたプロジェクトの話を始める。
筋が通っていて、オチもある。だれかが悩みを打ち明ければ、的確なアドバイスで締めくくる。
話が途切れると、すかさず次の話題を出す。聞いている側は感心する。
けれど帰り道に「次も呼ぼう」とは思わない。

会話が「審査」になっている

片石氏は、会話の場を2種類に分けて考えている。
相手と通じ合うための「コミュニケーション」と、選ばれるための「オーディション」だ。たとえば就活の面接について、片石氏は次のように書く。

オーディションには審査員がいます。アイドルのオーディションだと、プロデューサーが審査員です。
面接をオーディションだととらえると、面接官は「審査する人」です。審査する人に落とされないように、必死に頑張ろうとします。

――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

誘われなくなる人のワースト1の特徴は、コミュニケーションの場を、オーディションにしてしまうことだ。
実績を語るときは、「すごい」と思われようとしている。自分が審査される側だ。だれかが悩みを打ち明ければ、正解を出そうとする。今度は相手を審査する側に回っている。

長く勤めた人ほどオーディション化した話し方が抜けない

会議、報告、評価面談。会社員の会話の多くは、評価される場で交わされる。長く勤めるほど、正解を言い、実績で語り、隙を見せない話し方が身につく。現役のうちは、間違いなく武器になる。

オーディション化すると、人は自分をよりよく見せようとします。
――同書より

定年後の集まりには、審査員がいない。にもかかわらず、本人だけがオーディションを続けてしまう。周りは頼まれてもいない審査に、毎回付き合うことになる。楽しいはずの時間が、少しずつ疲れる時間に変わっていく。
誘われる人は、沈黙を怖がらない
話が途切れるたびに次の話題を出してしまうのも、根は同じだ。

オーディションだと思っているから、評価が怖い。評価が怖いから、沈黙が怖い。だから、音で埋めようとしてしまう。
逆に、コミュニケーションをコミュニケーションとして、相手を信頼して向き合えば、沈黙は怖くなくなる。
――同書より

定年後も声がかかる人は、失敗談や、まだ答えの出ていない迷いを平気で口にする。言葉に詰まっても、慌てて埋めようとしない。正解ではない話には、聞く側が口を挟める。会話に参加する余地が生まれる。
定年後の集まりで必要なのは、いい話ではない。答えの出ていない話を、途中のまま差し出すことだ。