「今期のアジェンダですが、エビデンスベースで議論したいので、まずはパーパスの再定義から」
会議で、こう話す人がいる。言葉はよどみなく出てくるし、間違ったことも言っていない。ただ、聞き終わったあとに残るのは、「結局、何が言いたかったんだろう」という感想だけだ。
賢く見せようとしているのに、かえって中身のなさが伝わってしまう人の特徴を明かすのが、アパレル史上最年少で上場した株式会社yutori社長・片石貴展氏の新刊『自分の言葉で話せるようになりましょう。』だ。
(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 淡路勇介)

会議 プレゼンPhoto: Adobe Stock

賢く見せようとするほど、中身は透けて見える

「アジェンダ」「エビデンス」「アグリー」と横文字を並べる。
「心理的安全性」「パーパス」といった流行のビジネス用語を連発する。本人は、賢く有能なビジネスパーソンに見えていると思っている。
だが片石氏は、言葉をファッションにたとえて一刀両断する。胸にハイブランドのロゴが大きく入った「ロゴどんTシャツ」を着て、自分を大きく見せようとする行為と同じだ、と。
片石氏が特に危ういと指摘するのが、組織で泥水をすするような苦労も激しい対立も経験しないまま、ビジネス書やネットで読んだ「最新の正解」として言葉を使う人だ。

着ている本人は「自分はかっこいい」と思っているかもしれない。でも、周りの人には、ただ流行のロゴを身にまとった、中身のないマネキンに見えています。
――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

ワースト1は「記号で自分を説明すること」

アホっぽく見える人の特徴のワースト1は、自分を語るときに記号を借りることだ。

「この前◯◯社長と食事してきた」
「△△さんとはよく一緒に仕事をしている」
「□□という会社で働いている」

有名人とのつながり、大企業の名前、立派な肩書き。
片石氏は、すべて自分自身の中身ではなく外部の記号だと言い切る。強いロゴの力を借りて自分を大きく見せる、ロゴどんTシャツと同じ構造だ。
若者に広がるMBTIも、使い方によっては同じ道に入る。
片石氏自身は社内のメンバー全員に把握してもらうほど積極的に活用しているが、危ないのは可能性を閉じる使い方だという。

「私はINFPだから、こういう人とは合わない」
「彼はESTJだから、自分とは違う人種だ」

「INFPなんです」と言われた側は、その人のことを何も知らないまま、わかった気になる。
横文字も、人脈の話も、MBTIも、同じことをしている。自分を説明する手間を、出来合いの言葉に肩代わりさせているのだ。

記号に頼るのは楽です。
簡単に他者に自分を説明できてしまう。
――同書より

賢そうに見えるかどうかは、語彙の難しさで決まらない

語彙が多いこと自体は、何も悪くない。
横文字も、人脈も、MBTIも、会話のきっかけとして使うぶんには役に立つ。
分かれ目は、その言葉が自分の経験を通っているかどうかだ。
泥水をすすった記憶のある人が語る「心理的安全性」と、記事で読んだだけの人が語る「心理的安全性」は、同じ単語でもまったく別の重さを持つ。
聞き手は、その差を驚くほど正確に感じ取る。
賢そうに見られたいなら、難しい言葉を増やすより先に、借りているロゴを一枚脱ぐこと。
語れる中身は、脱いだあとに見えてくる。