「まだ若いから、脳の衰えなんて関係ない」。そう思っていないだろうか。しかし脳の衰えは、自覚症状が現れる何年も前から進行している場合があるという。では、30代や40代でも「脳が老いている人」には、どんな共通点があるのか。元オックスフォード大の医学研究者であり、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』をもとに、その意外な特徴を紹介する。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

「脳が老いている人」が気づかぬうちにやっていること・ワースト1Photo: Adobe Stock

「年齢が若いから、脳も若い」とはかぎらない

人の名前が、すぐに出てこない。
さっき聞いた話を、もう一度聞いてしまう。
仕事中も、以前より集中力が続かない。

そんなことが増えても、30代や40代なら、「最近疲れているだけだ」と考える人が多いだろう。

しかし、元オックスフォード大の医学研究者であり、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で、認知機能の低下は早い時期から始まっている可能性があると指摘している。

従来のアルツハイマー病も、明確な症状が発症する20年近く前から進行が始まっている場合があります。
症状が現れるのは早くても40代以降であることが多いのですが、その何年も前から、気づかぬうちに魔の手に捕まっているかもしれないのです。

(下村健寿著『糖毒脳』より)

つまり、「物忘れが始まったとき」がスタートではない。

その何年、何十年も前から、認知機能の崩壊が進んでいる可能性があるのだ。

「糖の摂りすぎ」がアルツハイマー病につながる

下村氏が指摘している、若いうちから脳を老けさせる「魔の手」とは何なのか。

それが、日常的な「糖の摂りすぎ」である。

過剰な糖の摂取を長年積み重ねた結果として発症するのが「糖尿病」ですが、じつは糖尿病の人は、アルツハイマー病になりやすいのです。
米国ミネソタ州南東部の地域住民を対象とした大規模研究では、アルツハイマー病患者の81%が2型糖尿病、または糖尿病予備群であったと報告されています。
この数字は、過剰な「糖」が糖尿病もアルツハイマー病も引き起こしているという事実を示しています。
実際、2つの疾患は「原因が同じ病気」と言っても過言ではありません。

(下村健寿著『糖毒脳』より)

アルツハイマー病を「3型糖尿病」と考える専門家は世界に数多く存在する。

この、過剰な糖によって脳が毒された状態を、下村氏は「糖毒脳」と呼んでいる。

そして、「糖毒脳」の状態が進行すると、脳の認知機能が崩壊していくのだ。

健康診断が「正常」でも安心できない

恐ろしいのは、この段階では本人が異常に気づきにくいことである。

若い人であれば、膵臓にはまだ十分な力がある。

そのため、糖を多く摂っていても、膵臓が頑張って大量のインスリンを出すことで、血糖値だけは正常に保たれることがあるという。

下村氏はこう説明する。

若い頃は、たとえ糖を多く含んだ食事をたっぷりとっても膵臓が頑張ってたくさんのインスリンを出すので、血液中の血糖値は正常に保たれます。このときに血糖値を調べても、結果は「正常」となるでしょう。
しかし体の中ではすでに、水面下で「異常な状態」に陥っています。本来では考えられないほど大量のインスリンが血管の中にどんどん放出されているのです。

(下村健寿著『糖毒脳』より)

「健康診断で問題がなかったから大丈夫」とは限らないのだ。

体が健康なのではなく、体が無理をして、正常な状態を維持しているだけという可能性もある。

本人が知らないところで、「インスリン過多」が続いていることもあり得るのである。

「インスリン分泌の異常」が引き起こすもの

インスリン過多の状態が続くと、しだいに体がインスリンに慣れ、効き目が落ちてくる。

すると、体はさらに無理をしてインスリンを分泌するが、やがて力尽きてしまう。

この「インスリンの分泌が尽きる」という状態が、糖尿病につながり、そして、脳の認知機能にも悪影響を与える。

脳の中でインスリンは、「学習」や「記憶」を司る脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、脳神経細胞そのものを保護したりする、極めて重要な働きをしていることがわかってきたのです。
さらには、脳内のインスリンは記憶や学習をスムーズにすすめるだけでなく、アミロイドβなどによる攻撃から脳神経細胞を守る役割も果たしています。
インスリンが脳の中でその力を十分に発揮できていれば、脳神経細胞が守られ、アルツハイマー病は発症しにくい、あるいは進行しにくいということになります。

(下村健寿著『糖毒脳』より)

血液中の血糖値が上昇する「糖尿病」も、脳の機能が低下する「アルツハイマー病」も、ともに「インスリンが十分な力を発揮できない」という、まさにインスリンの異常が根本的な原因として深く関わっていることが明らかになっているのだ。

若いのに「脳が老いている人」がやっていること

若いのに脳が老いている人が気づかぬうちにやっていること。

それは、糖を摂りすぎる生活を続けていることだ。

ご飯やパン、麺類など、普段何気なく食べている炭水化物も、体内では糖になる。

若いうちは、多少無理をしても体がカバーしてくれる。だからこそ、異変に気づきにくい。

しかし、その間にも糖代謝の異常が積み重なり、脳に影響を及ぼしている可能性がある。

脳がまだ若いうちから、糖との付き合い方を見直す。

それが、何十年後も「老けない脳」を保つための第一歩なのである。

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。