給与支給明細書の上に立つビジネスマン写真はイメージです Photo:PIXTA

「失われた30年」は、デフレが元凶だったのだろうか。企業の利益や株主配当が大きく増える一方、人件費や設備投資はほぼ横ばいで、実質賃金も伸びていない。企業にとって合理的なコスト削減が、なぜ日本経済全体の成長力を弱めたのか。経済学者の筆者がデータをもとに読み解く。※本稿は、伊藤 修『日本経済はなぜ沈下したのか 「正しさ」が招いた35年の停滞』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

小さな物価下落が続いた日本
「デフレ元凶」論の落とし穴

 1990年代末から、2022年にインフレに転ずるまで、大きな問題として論じられたのが「デフレ」である。ただし物価下落率は1%未満レベルとゼロ近辺で、ときどきマイナスになるというものだった。

 デフレだとしても微小で、大恐慌期1930~33年のアメリカの消費者物価(コアPCEデフレータ)の25%下落、日本の消費者物価の1925~31年での30%下落といった激甚なものとは質が異なっていて、区別されるべきである。インフレも程度によって影響が異なることを考えてみればよい。

 この意味で、以下では「微小デフレ」と呼ぶことがあるが、この点はあまり議論されず、単にデフレ、また日本の特殊な症状であるといわれた。

 さらに、このデフレが停滞の中心的な(あるいは唯一の)原因で、日銀の金融政策の誤り(引き締め過ぎ)から来ており、したがって金融政策を転換すればデフレも停滞も脱出できるという説(リフレ派理論と呼ばれた)が出た。それが第2次安倍政権では公式に取り上げられて、「デフレ脱却」が最大の政策目標とされた。