プロダクトの先にある、関係性をデザインしたい

 和田が着目したのは、仕切りそのもののかたちではなく、そこに生まれる空間の心地良さだった。

「今、この心地良さを再現するなら、どんなフェンスになるだろう。そこからコンセプトづくりが始まりました」

 境界はつくるが、気配までは消さない。

 そんな現代的な「抜け感」をかたちにするための素材として和田が選んだのが、カーボンファイバー(炭素繊維)だ。

部分に向き合うことで、全体が豊かになっていく――LIXIL〈Concept F〉・和田明日香写真:LIXIL

 軽くて強い機能性素材としてさまざまな用途に使われているが、フェンスに使われた前例はない。工業的な素材に見えて、主成分の炭素は、植物にも動物にも、私たち自身にも含まれている。黒い線材をランダムに巻き付けることで生み出される、個体差のある複雑なかたち。それは、ツタが絡まり合っているようでもあり、植物の影を立体的に立ち上げたかのようでもある。太陽の動きに合わせて地面に落ちる影が変化し、風や人の気配を程よく透過させていく。

 ここで和田がデザインしているのは、フェンスそのものの姿というより、それが置かれることで、光や風、人の気配が空間にどう現れるか、だ。

 和田はLIXILに入る前、照明器具メーカーのデザイナーだった。

 「照明は、空間や人を照らして行動をサポートするものです。当時から『照明器具』というより『明かり』をデザインしている感覚がありました。建材をデザインするようになった今も、やっていることは根本的には同じです」

 自分のデザインした製品を「作品」とは捉えない、と和田は言う。

「建材が作品として前に出すぎると、たぶん住みづらいんですよ。作品として完結していることより、ユーザーが使いやすく、暮らしが豊かになることの方が重要です」

 もっとも、モノそのものを主役にしないことは、造形へのこだわりを捨てることではない。

 そのこだわりを支えているのはデザイナー個人の感覚だけではない。LIXILには、細部の必然性を組織として磨き上げていく仕組みがある。

 「LIXILには、目指す価値を生み出せているかどうかを、徹底的に検証するプロセスがあります。ドアやサッシのエッジ一つ取っても、0.3ミリか0.5ミリか、いや、0.8ミリの方がいいか。わずかな違いまで検証するフローを何度も繰り返します。悪目立ちせず暮らしになじむか、触れたときに心地いいか、当たっても痛くないか。いろいろな角度からあるべきかたちを探っていくからこそ、細部まで必然性のあるかたちになるし、結果として完成品に精緻感が宿ります」