センサーサイズや画素数といったスペック競争から距離を置き、撮るという体験そのものの豊かさを問い直す──。フィルムカメラをほうふつとさせるクラシカルな外観に「写真を撮る楽しさ」を凝縮した〈Xシリーズ〉は、今や富士フイルムのイメージング思想を体現するブランドになっている。原点は、2011年に発売された〈X100〉。このプロダクトデザインを手掛けた後、15年に及び同社のデザインをリードしてきた今井雅純氏の思考の軌跡をたどると、個人の創造性を製品に結晶させる道筋が浮かび上がる。(取材・文/ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)

「自分」と「世界」のピントを合わせるデザイン――富士フイルム〈X100〉・今井雅純Photo by YUMIKO ASAKURA

チームの思いが重なる瞬間

「空がスカッと晴れたような感覚でした」

 後に〈X100〉として発売されるカメラのモックアップを、会議で初めて披露したときの空気を、富士フイルムのデザイナー・今井雅純はこう表現する。

「自分の心の底から湧き出た思いが、チームのみんなの共感を得た瞬間でした。ピースがぴったりとはまったような、そんな気持や高揚感を感じたのです」

 プロジェクトが立ち上がったのは2009年ごろ。背景には、デジタルカメラ市場の急激な変化があった。iPhoneの登場によって、誰もが日常的に写真が撮れるようになり、コンパクトデジタルカメラの存在意義が根こそぎ奪われようとしていた。当時の富士フイルムの唯一のカメラブランド〈FinePix〉の存続の危機。しかし、プロジェクトに加わった今井はワクワクしていたという。

「いったんコストのことは忘れ、君たちが良いと思うものを作ってくれ、と当時の事業部長がはっきり言ってくれたのです。高価な素材も、手間のかかる加工も、まな板の上に載せられる。市場の状況は深刻でしたが、同時に根本から新しいものを考えられる自由を感じていました」

 あえてターゲットを定めず、プロの写真家も交えて本音であるべき姿の議論を重ねていく。「一眼レフか、コンパクトか?」「レンズの明るさは?」「センサーサイズは?」「ファインダーは必要か?」。これまで問われてこなかったカメラの本質に立ち戻り、ゼロから商品像を探っていった。

 撮影に没入したい。背面モニターではなくファインダーをのぞいて撮りたい。画質にも色にも妥協したくない。毎日持ち歩きたくなる存在であってほしい──。断片的な思いがだんだん一つの方向を示し始めるまで、さほど時間はかからなかった。