「美」は数値化が難しい。それ故、企業組織の中でしばしば効率や合理性に回収されてしまいがちだ。一方で「美」は、人や社会を変える可能性も持つ。これを組織に埋没させず、価値に接続するためには何が必要だろうか。「抵抗」としてではなく、「外部との回路」として美意識を機能させる——。そんな実践を通じて、創造の火をともし続けるデザイナーがいる。個人でも活動しながら三菱電機統合デザイン研究所に所属するプロダクトデザイナー、松山祥樹氏だ。(取材・文/ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)
Photo by YUMIKO ASAKURA
夜の暗さを肯定するクジラのランプ
照明ブランドAmbientec(アンビエンテック)に、〈Cachalot(カシャロ)〉という名のランプがある。
由来は、フランス語のマッコウクジラだ。彫刻のような存在感をたたえているのは、滑らかに曲面がしなるシェード。明かりをともすとシルエットが揺らぎ、深海を悠々と回遊する1頭のクジラの姿が立ち上がる。夜の暗さを打ち消すのではなく、むしろ肯定するような、ひっそりと柔らかな光だ。
デザイナーは、松山祥樹。三菱電機では当時、主に家電製品など実用性の高いプロダクトを中心に手掛けていたという彼が、なぜこうした照明を生み出したのか。
「個人名義のデザインは入社当時から続けていました。Ambientecさんとご縁がつながったのは、個人的に参加していたミラノデザインウイークです。2019年のサローネサテリテ(若手デザイナーのためのエキシビション)に展示した作品がきっかけでデザインの依頼を頂きました」
ファーストスケッチの段階で、現在のフォルムはほぼ固まっていたという。しかし、なぜクジラなのか。
「有機的な造形と、光の彫刻のような存在感を大切にする──という方向性はごく初期に共有できました。クジラの造形にはもともと興味を持っていて、Ambientecというブランドと親和性の高いモチーフとして重ねていきました」
海中撮影用の照明機材にルーツを持つAmbientecにとって、クジラはブランドの来歴に響き合う。一般的には「かわいい」印象になりがちな動物モチーフで彫刻的な美しさを追求し、プロダクトとしての強度に変えていくチャレンジにも魅力を感じた。







