カーボンの線材がランダムに絡み合う不思議な形状のパーテーション。柱もなく、面もなく、光を受ければ複雑な影を地面に落とし、風や人の気配を向こう側から伝える。LIXILの〈Concept F〉は、2019年に先行デザインとして発表され、その後、商品化されたフェンスだ。手がけたのは、同社デザイナーの和田明日香氏。住宅の主役にはなりにくいフェンスの意味を再定義することで、街の「気配」まで捉え直す。成熟した商品に新しい価値を持ち込み、一つのプロダクトを通じて、空間全体を見つめる視点をひもとく。(取材・文/ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)
Photo by YUMIKO ASAKURA
「フェンス=境界」という前提を疑う
まるでオブジェのようなフェンス〈Concept F〉。LIXILが2019年に世に出した「フェンスのコンセプトモデル」を、ほぼそのまま商品化したものだ。
コンセプトモデルといえば、普通は自動車メーカーがモーターショーで発表する未来の車のようなものを思い浮かべるのではないだろうか。まだ世の中にない技術や大胆な造形によって、あっと驚く未知の可能性を示す──。そんな派手さと、建材であるフェンスは即座に結び付かない。
とはいえ、未来は必ずしも奇抜である必要はない。むしろ、あまりに当たり前になっているものを、一度根本から問い直した先にこそ、未来が見えてくることもある。
写真:LIXIL
では、そもそもフェンスとは何なのか。
道路と敷地の間。庭と隣家の間。街を見渡せば、「あちら」と「こちら」を分ける境界として、フェンスは無数に存在する。しかし、よほど意識しない限り、私たちはそれをデザインの対象として意識することはない。当たり前過ぎて目に入りにくいプロダクトの一つといえる。
総合建材メーカーのLIXILにとって、フェンスは主力商材の一つだ。成熟した市場の中で、どう未来を描くのか。デザインを担当した和田明日香がまず目を向けたのは、フェンスが現在のような姿になった背景だった。
「日本でフェンスが爆発的に増えたのは、戦後です。焼け野原から復興するためには、まず敷地をはっきり区切らなくてはいけない。柱を立て、規格化された部材で、早く効率よく境界を作ることが求められたからです」
しかし、それ以前にも「場を仕切るもの」は、日本文化の中に数多く存在していた。
「合理性の話はいったん横に置くと、日本古来の仕切りってもっと緩いんです。竹垣には大きな隙間が至る所に開いているし、ただの植栽が仕切りになっていることもある。平安時代の寝殿造りも、伽藍洞の大きな空間をびょうぶのようなもので仕切る構造でした。音や光を通す『緩い仕切り』の方が、本来の日本人の感覚には心地良かったのではないでしょうか」







