東大阪の電線メーカー・大原電線が、半世紀を超える歴史で初めて自社ブランドのプロダクトを作った。このプロジェクトに伴走したのが、プロダクトデザイナーの鈴木元氏だ。しかし、鈴木氏が外から新しいアイデアを持ち込んだわけではない。社内にもともとあった技術や思いに価値を見いだし、それらを具体的なかたちとして際立たせていったのだ。鈴木氏が理想とする「透明なデザイン」とは何か。大原電線との6年間からひもといていく。(取材・文/ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)

デザインが透明になるとき、そこにある「良さ」が立ち上がる──大原電線〈延長コード〉・鈴木 元Photo by YUMIKO ASAKURA

なぜ、何でもない延長コードが美しく見えるのか

 無骨で上品──。相反する二つの印象が、ごく自然に同居する延長コードがある。東大阪の電線メーカー、大原電線が、初めて自社ブランドとして世に送り出した製品だ。

 床に無造作に置かれていても美しく、手に取ればしっとりした質感が心地良い。静かなたたずまいは、電気製品というより家具のようだ。しかし内部には一般的な延長コードの2倍以上の素線が収められていて、断線しにくいタフネスを併せ持つ。

 電線メーカーが延長コードを作った、という事実そのものには何の不思議もないが、実は同社にとっては会社の行く末を左右するほどの挑戦だった。1958年の創業以来、半世紀以上にわたって手掛けてきたのは、機械や製品に組み込まれる中間部材としての電線作り。一般の生活者が手にするプロダクトを作った経験はまったくなかったからだ。

 きっかけは、東大阪市がものづくり産業の振興のために2019年度に始めたプロジェクト〈HIGASHIOSAKA FACTORies〉だった。板金、金網、鋳物といった中間部材を製造する町工場とデザイナーを結び付け、新たなブランドやプロダクトの創出を目指す取り組みである。

 このプロジェクトで大原電線に伴走したのが、プロダクトデザイナーの鈴木元だ。