部分と全体を往復しながら、少しずつ未来をつくる

部分に向き合うことで、全体が豊かになっていく――LIXIL〈Concept F〉・和田明日香ASUKA WADA
1984年生まれ。シニアデザイナー。 照明メーカーを経て2017年にLIXILに入社。 暮らしに関わる製品デザインと、幼い子どもを育てながらの働き方を「当たり前」と受け入れてくれる社風に引かれたことが入社の決め手。エクステリアデザインを経て、現在リビング商品のデザインを担当中。シニアデザイナーとしてデザインセンター内のグループを横断したアドバンス活動や育成活動にも注力している。
Photo by YUMIKO ASAKURA

 LIXILには、先行デザインだけを担当するチームやデザイナーはいない。通常製品の開発を手掛けるデザイナーが、先行デザインも手掛けていく。

 「両方やるのがいいんです。通常開発ばかりだと、既存の『らしさ』を軸にした積み上げ思考になりがちです。でも、先行デザインでは、いったん前提を取っ払って『本当はどうあるべきか』を問い直せる。ここで得た気付きが、結果として通常製品にも生かされます」

 新しい気付きを生み出す源泉は、身近な日常にこそあるという。

 「子どもがまだ小学生なので、仕事とプライベートがかなりグラデーションなんです。自転車をこぎながらデザインを考えたり、会社で子どもの病院の予約のことを思い出したり。仕事で考えていることを実際の生活の場面に落とし込む機会が多いおかげで、『この環境であれを使ったらどうなるだろう』みたいに、抽象と具体を往復させやすい。仕事のアイデアが、日常生活に転がってきてくれる感じです」

 散歩中にクレーンが見えたら「フェンスにクレーンを掛け合わせたら?」と考える。少しでも心が動けば、それを生かす方法に思いをはせる。

 「もう癖ですね(笑)。具体的な経験は多ければ多いほどいいと思っています。LIXILの商材が面白いのは、生活に密着していて、自分の経験を製品開発にそのまま生かせること。開発中は、これがあれば空間はどう変わるだろう、どんな人が使うだろう、住まいや街の見え方はどう変わるかな……って、プロダクトと、それを含む空間のあいだを常に行ったり来たりしています」

 〈Concept F〉が示したものも、プロダクトが置かれることによる人の住まい方や居心地の変化といえる。

 「効率よく空間を仕切れるフェンスも必要ですが、それだけだと、風景から感情に響くものがごっそりそぎ落とされてしまうかもしれない。ご近所さんが散歩して空気がちょっと動くとか、太陽が傾いて影がだんだん伸びていくとか。そういう気配の揺らぎを許す緩さが、社会にもっと必要じゃないかなって思うんです」

 1枚のフェンスは、街の中の小さな「部分」にすぎない。しかし、部分の変化が、街全体を、ちょっと豊かにすることもある。プロダクトという部分をつくりながら、暮らしや街全体を見つめ直していく。そんな往復運動にも、デザインという営みの本質が宿っているのかもしれない。