ストーリーへの「共感」で、多様な立場をつなぐ
製品開発では、最初に思い描いた姿が、そのまま実現するとは限らない。強度やコスト、製法といった現実の条件に向き合う中で、かたちは少しずつ変わっていく。
〈Concept F〉も例外ではなかった。和田が当初イメージしていたのは、完成品よりもさらに「抜け感」のある姿だったという。
Photo by YUMIKO ASAKURA
「出来上がった製品が、最初に思い描いていたものと同じではないことは確かです」
開発過程では、端部のカーブやファイバーを巻く間隔、回数などを細かく変えながら、数えきれないほどのトライ&エラーを重ねた。強度や製法といった条件に向き合いながら、どこまで目指す価値をかたちにできるかを探り続けた。
その結果たどり着いた完成品を、和田は「妥協」とは捉えていない。
「妥協したとか諦めたとかという感覚はまったくなくて、これが完成品だと心から思います」
それは、現実の条件に押し切られて妥協点で折り合ったのではなく、異なる専門性を持つ人たちが議論を重ねてより良い姿にたどり着いたから。そこまで粘れた理由について、和田は「同じ方向を見る、という握りが最初にできていたから」と話す。
「まず、ストーリーづくりから始めるんです。デザイナーだけじゃなく、企画や開発、事業部などの関係者全員で、製品がどんな空間に置かれるのか、そこで誰がどんなふうに暮らしているのかまで、細かく考えていきます」
目指すのは、意見のすり合わせではなく、目的意識への「共感」だ。
「デザイナーの本音としては、ユーザーにとって価値になるものは全部盛り込みたい。でも、収益性がなければ事業として成立しません。自分の理想を押し通すのではなく、企画・開発・生産などその道のプロの意見に耳を傾けて、全員が納得し、ユーザーにきちんと価値を提供できる落としどころを探し出す。議論しながら考え、合意をつくっていく。それがインハウスデザイナーには必要だと思っています」
たとえ意見がぶつかっても、そこに立ち返ることができる基準点としての「ストーリー」。立場が違ってもそれを深く共有できるように、和田は具体と抽象を何度も往復するという。
「竹垣の良さって何だっけ。向こうの気配が感じられたら、なんで心地いいんだっけ──って、具体的なモノを起点に言葉の精度を高めていきます。このプロダクトで空間がどう変わるか、人がどう感じるか、文化的にどんな意味があるのか。言葉だけじゃなく、スケッチも描くし、イメージ画像も探します。必要なら、それが実感できる場所にみんなで行くこともあります」
和田に言わせれば、それは「結婚の誓い」のようなものだ。
「病めるときも健やかなるときも……じゃないですけど、プロジェクトの最初のところで時間をかけて、みんなが同じ方向を見ることに合意しておく。同じ方向を見ている限り、意見が違っても、仲違いしても一緒に歩いていけます」







