
幾つものブランドを結ぶことで、新たなブランド価値を生み出すこと。既存の常識を否定し、破壊的イノベーションを起こすこと。LIXILがこうした強みを発揮できている背景には、デザインを経営の中枢に据え、積極的に活用する姿勢があった。トップとしてデザインの可能性をどう捉えているのか。社長の瀬戸欣哉氏に聞いた。
仕上げではなく起点
製品開発の最上流にデザインを置く理由とは
勝沼 経済産業省と特許庁が共同でデザイン経営宣言を発表したのは2018年でした。その時点で、LIXILでは既にブランドづくりにデザインを活用されていたそうですね。先駆的な取り組みのきっかけを、まずお聞かせいただけますか。
瀬戸 LIXILは、14年にドイツの水栓メーカーであるグローエを買収しました。そのチーフデザイナーを務めていたのが、現在LIXILの「Chief Design & Brand Identity Officer」であるポール・フラワーズです。彼と話をしていく中で気付くことが非常に多かったということがあります。
水栓金具は機能面で大きな違いを出すのが難しいので、往々にして製品開発の最後の段階でデザイン的な工夫を加えることで商品力を上げようという発想になりがちです。それに対してポールは、デザイナーは製品企画に初期段階から携わるべきであるという考えを持っていました。
製品やサービスは、時間とともにコモディティー化の方向に向かいます。そこで必要になるのは競合製品・サービスとの差別化です。製品・サービスを差別化するということは、その製品・サービスならではの価値をユーザーに理解してもらうということです。そのためには、最終段階での装飾的なデザインでは不十分で、ものづくりの最上流からデザインが力を発揮しなければならない。それがポールの考えでした。
勝沼 デザインの役割は、ものの仕上がりを美しく整えることだと考えられがちですが、それだけではなくて、その製品の価値をユーザーや世の中にどのように伝えるかを構想するところにこそデザインの力が必要になる――。そんな考え方ですね。それがまさしく、デザインによってブランドをつくるということだと思います。
瀬戸 その通りです。ブランドの強さは、機能性や意匠性だけでは生まれません。そこに欠かせないのが「感覚的価値」です。例えばメルセデス・ベンツのドアが閉まるときの「シュッ」という音。安価な車の「バタン」とは違う、そのわずかな感触や音が、ブランドの印象と密接につながっています。
同様に、トイレタリー製品にも感覚的価値が求められます。見た目や使い心地が素晴らしければ、単に「使えればいい」ではなく、「きれいに使おう」という意識が自然に生まれる。
そうした製品に対する敬意や心地良さこそがブランドの力になります。そうした感覚的価値を実現するためには、製品開発の初期段階からデザイナーが関わり、体験全体を構想することが欠かせません。
Photo by YUMIKO ASAKURA







