お茶碗を持って食べる女性写真はイメージです Photo:PIXTA

能力も経験も人柄もしっかりしていて不足はない。ところが、選考の途中で会食をしてみたら、食べ方がどうしても気になってしまった。採用の現場でそうした場面に出くわして、候補者への評価を下げてしまうケースが実際にあります。では、食事のマナーは採否の判断材料にしてよいものなのでしょうか。マナーとは何か、仕事の成果とどう関係するのかを解き明かしながら、食べ方を選考で見てもいい場合と、そうではない場合の境目について、人事・採用コンサルタントが解説します。(人材研究所ディレクター 安藤 健、構成/ライター 奥田由意)

食べ方が汚いのは
本当に採用NGなのか

 能力も経験も人柄も申し分ないのに、会食の席での食べ方がどうしても気になる。

 くちゃくちゃと音を立てて食べる、いわゆる「クチャラー」であったり、テーブルや衣服に食べかすを落としたりする。そうした候補者の姿を見て、なんとなく評価を下げてしまう面接官や採用担当者は実際にいます。

 とくに営業職であれば、取引先との会食で同じことをされたら困ると考える人もいるはずです。食事のマナーには、自分が他人からどう見えているかを想像する力や、場に応じて振る舞いを修正する意識が表れる、という見方もあるでしょう。

 日本の社会では食べ方から人となりを推し量る考え方も根強くあります。もしあなたが採用する立場なら、候補者の食事のマナーを判断材料にしていいのでしょうか。

 ここで一度立ち止まって考えたいのは、マナーには、どこでも通用する唯一の正解があるわけではないということです。

 マナーとは本来、人を不快にさせないための言動です。そして、何が正しい振る舞いかは文化によって変わります。

 日本ではお椀を手に持って食べるのが基本で、器を食卓に置いたまま口を近づけて食べると犬食いと言われます。ところが隣の韓国をはじめ、器を持ち上げずに食べるのが基本の国はたくさんあります。蕎麦をすする音も、日本では粋と評価される一方、多くの国では麺類をすするのは不作法だと考えられています。

 絶対に正しい所作が先にあるのではなく、その場にいる人たちが不快にならない振る舞いが、集団の中で共通認識として積み重なったもの。それがマナーです。

 また、マナーは知識や経験によって身につくものでもあります。

 上座と下座にしても、自分が一番下の立場なら機械的に下座に座ればいいとも限りません。目上の人から再三、奥の席を勧められれば、断るほうが失礼に当たることもあり、こうした微妙な匙加減は経験の中で覚えていくしかありません。

 そもそも入社してから育てられるスキルは採用時に求めないのが原則です。

 というのも採用基準は少なければ少ないほどうまくいくものであり、あれもこれもと要求を増やせば、すべてを満たすスーパーマンなどどこにもいないということになりかねないからです。

 とりわけマナーは入社後に身につけられるものの代表例です。気になるなら、内定後や入社後に一緒に食事に行って伝えればいいのです。

 一つの行動から、気が利かない人、配慮のできない人とまで判断するのも危険です。気遣いのできる人がマナーでつまずくこともあれば、マナーは身についていても、表面だけを整えているにすぎない人もいるからです。

 マナーが悪いことと、仕事ができないことを結びつけるのは、飛躍ではないかとも思います。

 とくに新卒の学生は、要所要所でどういう振る舞いが求められているのかを知らないこともあります。気遣いはできてもマナーとしては少しずれている学生もいれば、マナーを意識しすぎて、ノックの回数や鞄を置く位置ばかり気にしたり、過剰敬語で不自然な話し方になっていたりする学生もいます。

 本人はマナー通りのつもりでも、いい塩梅を知らないのです。食べ方が汚いのも、本人が単に知らないだけ、これまで誰からも指摘された経験がないだけかもしれません。

 では、食事のマナーは採用で一切見てはいけないのでしょうか。実は、そうとも言い切れません。食べ方が問題になる仕事もあります。