「デザイン」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。かつては製品の形や色を整える言葉だったが、今ではサービスや組織、さらには人生まで「デザインする」と表現する。松下幸之助が「これからはデザインの時代だ」と見抜いてから、その言葉はなぜここまで意味を広げたのか。『概念シフト』から一部抜粋・編集して紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局)
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「デザイン」の価値が見いだされた70年前
「デザイン」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。製品の形や色を美的に整えることをイメージする人もいれば、サービスや組織、さらには人生を、望ましい状態に向けて意図的に設計することを思い浮かべる人もいるだろう。同じ言葉でも、そこに結びつくイメージによって、私たちが思い描くものは変わる。
このように、ある対象について特定のイメージを呼び出す手がかりとなるのが「記号」である。言葉、アイコン、名称、数値指標などがこれにあたる。記号は、客観的な現象の世界と主観的な概念の世界を結びつける役割を果たす。
「デザイン」という言葉も、こうした記号の1つだ。この言葉に結びつくイメージが広がることで、モノづくりに限らず、暮らしや仕事も「デザインできるもの」として捉えられるようになる。では、「デザイン」という言葉は、どのように広まり、その意味を広げてきたのだろうか。
日本語としてのデザイン自体は戦前から用いられていた。1950年代に戦後復興と輸出産業の再興のなかで、工業製品の競争力を高めるためのキーワードとして前面に押し出されるようになった。欧米の製品を単に模倣するのではなく、国際競争力を持つオリジナルな製品設計の重要性が叫ばれるようになったからだ。
この流れを象徴するエピソードとしてよく語られるのが、松下幸之助の「これからはデザインの時代だ」という言葉だ。アメリカ視察から帰国した松下は、デザインの重要性に気づき、1951年、社内に「製品意匠課」を設置して自社製品のデザイン強化に踏み出したと言われている[※1]。企業経営の中核にデザインを据えるべきだという、この時期の気づきや試みが、その後の日本企業全体に広がっていった。
こうした問題意識の高まりを背景に、1957年には通産省(現経産省)が、グッドデザイン賞の前身となる「グッドデザイン商品選定制度(Gマーク制度)」を立ち上げた[※2]。この賞は「優れた製品である」というお墨付きを与える制度として機能しただけでなく、デザインという言葉そのものを広め、その意味範囲を拡張することにも寄与した。
興味深いのは、「デザインする」という言い回しが、モノづくりの領域を超えて広がっていった点である。もともとはプロダクトやグラフィックの設計を指していたはずが、都市計画やサービス開発、組織づくり、さらには人生設計にまで「◯◯をデザインする」という表現が使われるようになった[※3]。
この拡張には、政策や制度だけでなく、教育やメディアの役割も大きい。スタンフォード大学のデザインスクールは、「発想法」「問題解決プロセス」としてのデザインを体系的に教える中心的な拠点となった[※4]。雑誌やテレビは「キャリアデザイン」といったラベルを通じて、生活全体をデザインの対象として提示した。
これらの経験の積み重ねにより、多くの人にとって「デザイン」は特定の業界の専門用語ではなく、「工夫してよくしていく試み」を指す日常的な記号として市民権を得たと考えられる。
注2 グッドデザイン賞公式ウェブサイト「グッドデザイン賞」の「歴史とこれから」 https://www.g-mark.org/learn/gda/history(2026年2月3日閲覧)。
注3 Buchanan,R.(1992).Wicked problems in design thinking.Design Issues,8(2),5-21.
注4 ビル・バーネット、デイヴ・エヴァンス(2019)『スタンフォード式 人生デザイン講座』早川書房(千葉敏生訳)。







