100年に1度の危機で公募増資フィーバー
全日空、オリックス、大和証券など株主総会直後に公募増資を発表する事例が相次いでいる。先に公募増資の発表や実施がなされていた三井住友、みずほ、野村證券、三菱UFJの例など合わせると、今年は大規模な公募増資がオンパレードである。通常は、一株あたり利益の希薄化につながりかねない(*)公募増資は市場から嫌がられるものであるが、これら一連の公募増資祭りにおいては、株価下落幅はそれほどではなく、全体的には市場に歓迎されているという印象である。もっとも、公募増資特有の発表直後の空売りによる株価下落はあるが、野村や三菱UFJに見たように実施後の株価は上昇基調ですらあった。
*新たに調達する現金が今までと同様水準の利益を生み出せば、一株あたり利益は不変である。また、会社には現金が入ってくるため、一株当たり価値も変わらない。したがって、頻繁にメディアで使われる「増資=一株あたり利益の希薄化(あるいは一株当たり価値の減少)」との表現は間違っている。現実は、調達したお金から新たな利益を生み出せない企業が過去に多かったため、増資は一株あたり利益の希薄化につながりかねないというのが適切である。
株主総会直後の公募増資は
ブーイングではなかったのか?
一方、思い返すこと3年前、同様に株主総会直後に大規模な増資を発表して市場から大ブーイングを食らった企業がある。日本航空(JAL)だ。株価は30%以上の大幅下落に見舞われたが、当時言われたのは、株主が公募増資に嫌気をさしただけではなく、それほどの大規模増資のことを数日前の株主総会でまったく言及しなかったことに対しての経営陣に対する批判も非常に大きかった。その記憶が強かったがゆえに、今回の一連の公募増資フィーバーにおいて、株主総会直後の発表にもかかわらず、その点を批判、批難する論調を見かけないのが不思議である。
3年前は好景気であり、今回は100年に1度の金融危機の真っただ中なので、今回の方が既存株主は公募増資を受け入れやすいとは思う。メディアの論調でも、資本増強によって経営基盤を強化する、とある。確かにその通りでその点をとやかく言うつもりは全くない。しかし、株主総会の直後に発表をする案件に関して、その点が指摘されないのであれば、3年前のJALバッシングはなんだったのだろうかと思わざるを得ない。
もっとも、当時のJALの公募増資に関しては、ガバナンス上にも大きな問題があり、当時の日経ビジネスの記事などによれば、公募増資決定の役員会の召集自体が緊急であり、当時の社外監査役は出席したくとも物理的に出席できなかったという指摘もあった。しかも、役員会の議題は明かされずに召集がかかったので、社外監査役もそれほどに重要な役員会だとは思っていなかったということである。